株式会社増富

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虚血性心疾患

三尖弁輪形成術(TAP)

心臓手術

三尖弁輪形成術(TAP)概要

三尖弁輪形成術または三尖弁輪縫縮術(Tricuspid Annuloplasty:TAP)は、三尖弁閉鎖不全症(Tricuspid Regurgitation:TR)に対する外科的治療法の一つです。三尖弁は心臓の右側に位置し、右心房と右心室の間にある弁です。この弁が正常に機能しない場合、血液が心室から心房に逆流することがあり、心臓の効率が低下します。

三尖弁の機能と重要性

三尖弁は、心臓の右側に位置する重要な弁であり、正常な心臓機能において欠かせない役割を果たしています。この弁は、右心房と右心室の間に位置し、心臓の収縮期に右心房から右心室へ血液が流れるのを助け、弛緩期に血液が逆流するのを防ぎます。

手術適応

重症三尖弁閉鎖不全症(TR)の診断基準

三尖弁閉鎖不全症(Tricuspid Regurgitation:TR)は、三尖弁が正常に閉じないことにより、血液が右室から右房に逆流する状態を指します。重症度の評価は、患者の臨床症状、心エコーによる検査結果、およびその他の心臓機能評価に基づいて行われます。

臨床症状と検査結果

  • 臨床症状には、息切れ、疲労感、腹部の膨満感、下肢のむくみなどがあります。これらの症状は、TRによる右心室の機能不全と血液の静脈系への逆流に関連しています。
  • 心エコー検査はTRの診断と重症度評価に不可欠です。TRの量、三尖弁の形態、右心室のサイズと機能、肺動脈圧などが評価されます。

治療適応の判断基準

  • 重症TRの治療適応は、臨床症状の存在、心エコー図で確認される重度の逆流、および右心室機能の低下など、複数の要因に基づいて決定されます。
  • ガイドラインでは、症状のある患者、または右心室の機能不全が見られる場合に三尖弁輪形成術(TAP)などの外科的介入が推奨されます。

二次性三尖弁閉鎖不全症

二次性三尖弁閉鎖不全症(Secondary Tricuspid Regurgitation:STR)は、他の心臓疾患が原因で発生する三尖弁の機能障害です。左心系疾患(僧帽弁疾患、左室機能障害など)による右心室の圧負荷増加や拡大が主な原因となります。

内科治療と外科治療の選択

STRの管理には、原因疾患の治療が中心となりますが、症状や病態に応じて内科治療と外科治療の適用が考慮されます。

内科治療

STRの初期段階では、薬物療法による症状の管理が中心となります。利尿剤の使用により体液負荷の軽減を試み、ACE阻害剤やARB、β遮断薬などによって心臓の負担を軽減します。しかし、これらの治療は症状の軽減を目的としており、三尖弁の構造的問題を修正するものではありません。

外科治療

STRが進行し、薬物治療による症状の改善が見込めない場合や、他の心臓手術を行う際には、三尖弁輪形成術(TAP)や三尖弁置換術などの外科的治療が検討されます。特に、左心疾患に対する手術時に二次的に発生する三尖弁閉鎖不全症に対して、予防的または治療的に三尖弁手術を同時に行うことが推奨されることがあります。

手術方法

三尖弁輪縫縮術(suture annuloplasty)

三尖弁輪縫縮術は、三尖弁閉鎖不全症を治療するための外科手術の一つです。この手術の目的は、三尖弁の閉鎖不全を改善し、心臓の機能を正常に戻すことです。手術には主に二つの方法があります:Kay法とDeVega法です。

Kay法とDeVega法

Kay法(annular plication)

 Kay法は、三尖弁輪の一部を折りたたみ、縫合することで三尖弁輪の直径を縮小させる手法です。この方法は、三尖弁の前尖と後尖の間、または後尖と中隔尖の間で行われることが一般的です。Kay法は、特に弁輪の拡大が原因で発生した閉鎖不全に対して有効です。

DeVega法(semicircular annuloplasty)

DeVega法は、三尖弁輪の拡大を修正するために、弁輪の周りに巾着式の縫合を行う技術です。この方法は、三尖弁輪の全周にわたって行われ、縫合によって弁輪の直径が縮小されます。DeVega法は技術的に比較的簡単であり、多くの患者に適用可能ですが、再発率が比較的高いという欠点があります。

人工弁輪による弁輪縫縮術(ring annuloplasty)

三尖弁輪縫縮術における人工弁輪の使用は、三尖弁閉鎖不全症の治療において重要な役割を果たします。この手術は、三尖弁の形状と機能を改善し、弁輪のサイズを正常に近づけることを目的としています。手術には主に二つのタイプの人工弁輪が使用されます:semi-rigid partial ringとflexible bandです。

semi-rigid partial ringとflexible bandの使用

semi-rigid partial ring: semi-rigid(半硬性)のpartial(部分的な)リングは、弁輪の形状をより生理的な形状に近づけ、同時に必要なサポートを提供するよう設計されています。これは、心周期における自然な動きに追従しつつも、適切な弁輪のサポートを維持することを目的としています。semi-rigidリングは、特に弁輪の動的変化に対応する必要がある場合に有効です。

flexible band: flexible(柔軟な)バンドは、弁輪全体にわたって柔軟性を提供し、心臓の自然な動きを可能な限り妨げないようにすることを目的としています。このタイプのリングは、特に心臓の動きに追従することが重視される場合に適しています。

患者ケアとフォローアップ

患者ケアとフォローアップは、心臓手術を受けた後の回復プロセスの中核を成す要素です。術後の患者管理と長期フォローアップは、患者の生活の質を改善し、再手術のリスクを最小限に抑えるために不可欠です。

術後の患者管理

術後の管理は、患者が手術の影響から安全かつ効果的に回復することを保証するための一連のプロセスです。これには以下が含まれます:

  • 短期的な監視: 手術直後、患者は通常、集中治療室(ICU)で密接に監視され、心臓の機能、呼吸、循環状態が定期的にチェックされます。
  • 疼痛管理: 術後の痛みは患者の回復に大きく影響します。適切な疼痛管理を通じて患者の快適性を確保することが重要です。
  • 身体活動: 早期の身体活動は、合併症のリスクを減少させ、早期回復を促進します。
  • 栄養: 適切な栄養摂取は、体の修復プロセスを支え、免疫系の機能を強化します。

長期フォローアップと再手術

長期フォローアップは、患者が術後の生活を最適に過ごせるよう支援し、潜在的な問題を早期に特定するために重要です。

  • 定期的な健康診断: 心臓の機能、薬物療法の効果、生活習慣の改善など、定期的な医療チェックを通じて患者の状態を評価します。
  • 生活習慣の指導: 健康的な食事、定期的な運動、禁煙など、心臓に優しい生活習慣の維持が重要です。
  • 再手術の検討: 長期間にわたるフォローアップの中で、一部の患者は病状の変化や合併症の発生により再手術が必要となる場合があります。これらの判断は、医師と患者との密接なコミュニケーションに基づいて行われます。

入院~退院後の流れと、リハビリについて

心臓手術を受ける患者の入院から退院後に至るまでのプロセスと、心臓リハビリテーションについては以下のリンクをご参照ください。
入院中のケアから、退院後の生活への適応、そして心臓リハビリテーションを通じての健康回復と生活質の向上に至るまで、ご紹介しています。

よくある質問

こちらのコラムの内容の要点を「よくある質問」からまとめています。

三尖弁輪形成術(TAP)とは何ですか?

三尖弁輪形成術(TAP)は、心臓の右側に位置する三尖弁の閉鎖不全症を治療するための外科手術です。この手術は、三尖弁の機能を改善し、血液の逆流を防ぎ、心臓の効率を向上させることを目的としています。

重症三尖弁閉鎖不全症の診断基準は何ですか?

重症三尖弁閉鎖不全症の診断は、患者の臨床症状、心エコーによる検査結果、その他の心臓機能評価に基づいて行われます。特に、心エコー検査はTRの量、三尖弁の形態、右心室のサイズと機能、肺動脈圧などを評価するのに不可欠です。

三尖弁輪形成術(TAP)の手術方法にはどのようなものがありますか?

三尖弁輪形成術には主に三つの方法があります:Kay法、DeVega法、そして人工弁輪による弁輪縫縮術です。Kay法は三尖弁輪の一部を折りたたみ縫合する方法、DeVega法は弁輪の周りに巾着式の縫合を行う技術、人工弁輪縫縮術は三尖弁の形状と機能を改善するために人工弁輪を使用します。

内科治療と外科治療の選択はどのように行われますか?

二次性三尖弁閉鎖不全症の管理には、原因疾患の治療が中心となりますが、症状や病態に応じて内科治療と外科治療の適用が考慮されます。内科治療では薬物療法が中心ですが、薬物治療による改善が見込めない場合や、他の心臓手術を行う際に三尖弁輪形成術などの外科的介入が検討されます。

手術後の患者ケアとフォローアップには何が含まれますか?

手術後の患者ケアには、集中治療室での密接な監視、適切な疼痛管理、早期の身体活動、適切な栄養摂取が含まれます。長期フォローアップでは、定期的な健康診断、生活習慣の指導、再手術の必要性の検討などが行われ、患者の生活の質の改善と再手術のリスクを最小限に抑えるために重要です。

関連コラム

【参考文献】

・一般社団法人 日本循環器学会
弁膜症治療のガイドライン
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2020/04/JCS2020_Izumi_Eishi.pdf

【株式会社増富の関連コラム】
弁膜症
三尖弁閉鎖不全症

心疾患情報執筆者

心疾患情報執筆者

竹口 昌志

看護師

プロフィール

看護師歴:11年
《主な業務歴》
・心臓血管センター業務
(循環器内科・心臓血管外科病棟)
・救命救急センター業務
(ER、血管造影室[心血管カテーテル、脳血管カテーテル]
内視鏡室、CT・MRI・TV室など)
・手術室業務
・新型コロナウイルス関連業務
(PCR検査センター、コロナ救急外来、HCU、コロナ病棟、
コロナ療養型ホテル、コールセンター)

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