株式会社増富

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虚血性心疾患

心房中隔欠損症

先天性心疾患

1.心房中隔欠損症の概要

心房中隔欠損症(Atrial Septal Defect,:ASD)は、心臓の先天性疾患の一つで、心房中隔と呼ばれる右心房と左心房を隔てる壁に穴が開いている状態を指します。生まれつき心臓に何らかの異常を伴う先天性心疾患は約100人に1人(1%)の割合で起こると言われており、心房中隔欠損症はその先天性心疾患の中の約7%を占めています。心房中隔欠損症は、無症状で経過することが多く、定期的な健康診断や他の疾患の検査の際に偶然発見されることがあります。幼児期から学童期以降、また成人になってから診断されることも多くあります。無症状で発見されず、放置していると、心不全症状が現れ生活に支障をきたすようになるため適切な診断と治療が必要となります。

心房中隔欠損症 発症の原因。

心房中隔とは心臓にある「右心房、右心室、左心房、左心室」のうち、右心房と左心房の間を隔てる筋肉の壁のことです。心房中隔欠損症は、この右心房と左心房を隔てる壁の中隔に穴が開いている状態をいい、心臓の先天性疾患の一つとして知られています。主に以下の原因が考えられます。

胎児期の心臓の発育過程

胎児の心臓は、妊娠初期に形成される過程で、心房中隔という壁が形成されます。この心房中隔の形成過程で何らかの原因で正常に閉じない場合、心房中隔欠損症が発症します。具体的には、胎児の心臓には「オーバル窓」という開口部が存在し、これが生後に閉じることで心房中隔が完成します。しかし、このオーバル窓が生後も閉じない場合、ASDとして残存することがあります。

遺伝的要因

一部の心房中隔欠損症の患者さんには、家族歴が存在することが知られています。これは、遺伝的な要因が関与している可能性を示唆しています。特定の遺伝子変異や染色体異常が関連している場合も報告されています。

妊娠中の母体の健康状態

妊娠中の母体が感染症や糖尿病、高血圧などの疾患を持っている場合、胎児の心臓の発育に影響を及ぼすことが知られています。また、妊娠中の薬物の摂取やアルコールの過剰摂取、栄養不足なども、胎児の心臓の発育に影響を与えるリスク要因となり得ます。

環境的要因

放射線や特定の化学物質への曝露が、胎児の心臓の発育に悪影響を及ぼす可能性が考えられています。

心房中隔欠損症の症状

心房中隔欠損症は、乳幼児期には心音の雑音も弱く無症状で経過し、見落とされることがしばしばです。幼児期や学童期になって診断されることがあります。また、定期的な健康診断や他の疾患の検査の際に偶然発見されることも多くあります。症状としては欠損孔を通じた左右シャントによって生じた右房・右室への容量負荷による心不全症状が出現します。また、右心房や右心室が拡大するにつれ心房細動という不整脈を来します。以下のような心不全症状が現れることがあります。

  • 呼吸困難(特に労作時呼吸困難)
  • 疲労感
  • 手足のむくみ
  • 失神、胸痛
  • 心房細動

心房中隔欠損症の症状は進行するまで無症状のことが多く、また、日常生活の中で漠然と感じるものが多いため、自覚症状が少ないことがあります。しかし、これらの症状が進行すると、心臓への負担が増大し重篤な健康問題へとつながる可能性があります。

心房中隔欠損症の診断

聴診

心房中隔欠損症の最も一般的な所見は、欠損部を通過する血流によって生じるⅡ音の固定性分裂などの心雑音です。

心電図検査

心電図は心臓の電気的な活動を記録する検査です。心房中隔欠損症患者様では、右軸偏位、右室肥大、不完全右脚ブロックなどの特徴的な心電図の波形が現れることがあります。

胸部X線検査

 胸部X線検査は、心臓や肺の画像を提供する検査です。肺動脈と右室が拡張する所見が見られることがあります。

心エコー検査

心エコー検査は、心臓の詳細な画像を提供する非侵襲的な検査です。この検査により、心房中隔の欠損部の位置や大きさ、血流の方向や速度を詳しく評価することができます。心エコーは、心房中隔欠損症の診断において最も重要な検査の一つとされています。

心カテーテル検査

心カテーテル検査は、心臓の内部や大血管の圧力や酸素濃度を直接測定する検査です。この検査により、欠損部の大きさや位置、心臓の機能や肺の血流の状態を詳しく評価することができます。

MRIやCT検査

MRIやCTは、心臓の詳細な構造や血流の状態を高解像度で視覚的に評価する検査です。特に、心エコーで詳細な評価が難しい場合や手術前の詳細な評価が必要な場合に行われることがあります。

心房中隔欠損症の保存的治療・対症療法

心房中隔欠損症は、心臓の先天性疾患の一つとして知られています。治療方法は、欠損の大きさや位置、患者の症状や健康状態によって異なります。保存的治療や対症療法は、病気の根本的な治療ではなく、症状の緩和や患者の生活の質の向上を目的とした治療を指します

経過観察

小さな心房中隔欠損で症状がない場合、特別な治療を行う必要はありません。このような場合、定期的な医学的検査を受けることで、欠損の状態や心臓の機能を監視します。心エコー検査や心電図などを定期的に行い、欠損の大きさや位置、心臓の機能、合併症の有無などを確認します。

薬物治療

心房中隔欠損症に伴う特定の症状や合併症がある場合、薬物治療が考慮されることがあります。例えば、不整脈が発生した場合、抗不整脈薬が処方されることがあります。また、心不全の症状が出現した場合、利尿薬やACE阻害薬などの心不全治療薬が使用されることがあります。

呼吸困難の管理

呼吸困難がある場合、酸素療法が行われることがあります。これにより、患者様の酸素飽和度を改善し、呼吸困難の症状を軽減します。

生活指導

心房中隔欠損症の患者さんには、健康的な生活習慣を維持することが推奨されます。適度な運動、バランスの良い食事、塩分やアルコールの摂取制限などの生活指導が行われます。また、感染症のリスクを低減するための予防策として、定期的な歯科検診や感染症の早期治療が重要です。

カテーテル治療

カテーテル治療法 手技手順

心房中隔欠損症に対する心臓カテーテル治療では、カテーテルを経由し心臓に送った閉鎖栓を心臓の中で広げることで欠損孔を閉ます。

  1. 大腿部の静脈より細長いカテーテルの管を挿入し、右心房側から欠損孔を通して、左心房へアプローチします。
  2. デリバリーシースの先端まで閉鎖栓を進め、左心房側のかさを開きます。かさをさらに広げながら欠損孔に近づけます。
  3. 欠損孔の位置に合わせた後、かさを全て開きます。
  4. 閉鎖栓が確実に留置されたことを確認し、プッシャー(細長い金属製のワイヤー)を外します。

心房中隔欠損症の外科的治療(手術)

心房中隔欠損に対しては①開胸して直接穴を防ぐ外科手術②閉鎖栓を使ったカテーテル治療の2つの治療法があります。

 心房中隔欠損閉鎖術 手技手順

具体的な手術方法は症例によって異なりますが、一般的な心室中隔欠損閉鎖術は、以下のような手順で行われます。

  1. 開胸:全身麻酔下にて、執刀医のDrが開胸を行います。
  2. 体外循環開始:手術中の心臓と肺の役割を人工心肺という外部の装置に任せます。心筋保護液という薬剤を心臓に流し、心臓の拍動を停止させ、心臓の動きを完全に停止させます。
  3. 心房中隔の修復:心臓を切り開き、心房中隔の修復を行います。必要に応じて自己心膜やゴアテックスパッチやフェルトなどを使い、心筋の修復が行われます。
  4. 心臓機能の回復:切り開いた心臓を縫合し、心臓を拍動させた後、人工心肺を停止し、心臓の動きが自然に回復することを確認します。
  5. 閉胸:患者様の全身状態に注意しながら閉胸し、手術終了です。

心房中隔欠損:外科的手術とカテーテル治療の選択

心臓カテーテル治療の1番のメリットは侵襲が低いことです。基本的には外科手術と比べて傷が小さいため痛みも小さく、入院期間も短く済む傾向にあります。

一方で、孔の形状・場所・個数によっては治療が適応にならないことがあります。外科手術であれば穴を直接縫合するかパッチを使うなどして、多くの欠損孔に対応可能ですが、心臓カテーテル治療では、あらかじめ決まった形の閉鎖栓を使用する必要があるため、欠損孔が極端に大きな場合や多数ある場合、欠損孔の位置が悪い場合、また欠損孔の周囲に閉鎖栓をひっかけるような組織がない場合には心臓カテーテル治療を行うことは困難です。こういった場合には外科的手術をすることになります。

入院~退院後の流れと、リハビリについて

心臓手術を受ける患者の入院から退院後に至るまでのプロセスと、心臓リハビリテーションについては以下のリンクをご参照ください。
入院中のケアから、退院後の生活への適応、そして心臓リハビリテーションを通じての健康回復と生活質の向上に至るまで、ご紹介しています。

よくある質問

こちらのコラムの内容の要点を「よくある質問」からまとめています。

心房中隔欠損症(ASD)とは何ですか?

心房中隔欠損症(Atrial Septal Defect, ASD)は、心臓の心房中隔に生まれつき穴が開いている先天性の心疾患です。この穴によって、正常な血流が妨げられ、様々な健康問題を引き起こす可能性があります。

心房中隔欠損症の原因は何ですか?

主な原因には、胎児期の心臓の発育過程の異常、遺伝的要因、妊娠中の母体の健康状態の問題などがあります。特に胎児期に心房中隔が正常に閉じないことが多くの症例で見られます。

心房中隔欠損症の診断方法にはどのようなものがありますか?

診断には、心音の聴診、心電図検査、胸部X線検査、心エコー検査、心カテーテル検査、MRIやCT検査などが用いられます。これらの検査により、欠損部の位置や大きさ、心臓の機能などが評価されます。

心房中隔欠損症の治療方法は何ですか?

治療方法は症状や欠損の大きさによって異なり、軽度の場合は経過観察や薬物治療が行われます。重度の場合は、カテーテル治療や外科手術が必要になることがあります。

心房中隔欠損症の症状にはどのようなものがありますか?

症状は個々によって異なりますが、一般的には呼吸困難(特に運動時)、疲労感、手足のむくみ、失神や胸痛、心房細動などが挙げられます。しかし、多くの場合は無症状で、他の検査や健康診断の際に偶然発見されることがあります。

関連コラム

【参考文献】

・一般社団法人日本小児外科学
http://www.jsps.or.jp/archives/sick_type/shinboutyukaku-kessonshou

・一般社団法人 日本循環器学会
成人先天性心疾患診療ガイドライン(2017 年改訂版)
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2017/08/JCS2017_ichida_h.pdf

・一般社団法人 日本循環器学会
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2020/02/JCS2018_Yasukochi.pdf

心疾患情報執筆者

心疾患情報執筆者

竹口 昌志

看護師

プロフィール

看護師歴:11年
《主な業務歴》
・心臓血管センター業務
(循環器内科・心臓血管外科病棟)
・救命救急センター業務
(ER、血管造影室[心血管カテーテル、脳血管カテーテル]
内視鏡室、CT・MRI・TV室など)
・手術室業務
・新型コロナウイルス関連業務
(PCR検査センター、コロナ救急外来、HCU、コロナ病棟、
コロナ療養型ホテル、コールセンター)

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