株式会社増富

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大動脈縮窄症

先天性心疾患

大動脈縮窄症の概要

大動脈縮窄症(Coarctation of the Aorta、CoA)は、心臓の先天性疾患の約5%を占め、心臓から全身に酸素を豊富に含んだ血液を送り出す大動脈の一部が狭くなった状態です。また、大動脈二尖弁の合併がしばしば認められ、ターナー症候群(染色体45X)の約30%の合併が見られます。重度の縮窄がある場合、出生後数日で突然状態が悪化し心不全を起こす恐れがあり、脳出血、冠動脈硬化、心筋梗塞などの合併症を引き起こすリスクが高まります。

大動脈縮窄症 発症の原因

大動脈縮窄症は、大動脈の特定の一部分が狭まることで血流が阻害され、心臓に過度の負荷がかかります。原因としては、遺伝的要因や環境要因などが考えられ、以下は主な原因です。

遺伝的要因

特定の遺伝子変異や染色体異常は、心臓と大動脈の発育に影響を及ぼし、大動脈縮窄症を含む複数の先天性心疾患のリスクを高めます。例として、ターナー症候群や染色体22q11.2欠失症候群などが関連しています。これらの状態は、心臓の構造的異常の発生、特に大動脈の形成における障害を引き起こすことが知られています。

環境的要因

 胎児の発育に影響を及ぼす感染症や母親の摂取薬物、栄養不足など様々な環境因子も大動脈の正常な発育を妨げる縮窄の原因となる可能性があります。

後天的要因

川崎病や高度の動脈炎などの特定の炎症性疾患は、大動脈壁の炎症を引き起こし、瘢痕組織の形成や大動脈の硬化を促進することがあります。これは、時間とともに狭窄を生じさせる可能性があります。また、 胸部への重度の外傷や、心臓や大動脈に対する複雑な手術は、大動脈壁の損傷や瘢痕組織の形成を引き起こし、狭窄のリスクを高める可能性があります。

大動脈縮窄症の症状

大動脈縮窄症は、心臓から全身への血流が阻害されるため、心不全症状や脳出血、冠動脈硬化、心筋梗塞などの合併症を引き起こすリスクが高まります。これらの症状は、狭窄の程度、患者の年齢、同時に存在する他の健康問題などによって異なります。以下は主な大動脈縮窄症の症状です。

高血圧

 大動脈縮窄症の最も一般的な症状の一つは上肢の高血圧です。心臓が狭窄部位を通過するためにより高い圧力で血液をポンプしなければならないため起こります。一方、下肢は狭窄部位より下流に位置するため、しばしば低血圧や弱い脈拍を示します。

頭痛や鼻血

高血圧によるこれらの症状は、特に上半身に影響を及ぼす可能性があります。これは、狭窄が血流のパターンを変え、特定の領域において圧力が異常に高まることが原因です。

胸痛やめまい

 胸痛やめまいは心筋への血流が不足することで起こり、特に運動中により顕著になることがあります。重度の縮窄では、心臓への血流が大幅に減少し、不整脈や失神の原因となることがあります。

下肢の冷たさや弱い脈拍

 狭窄部位より下流の血流が不足するため下肢の冷感や感覚の低下が起こることがあります。

心不全症状

  • 呼吸困難(特に労作時呼吸困難)
  • 疲労感
  • 体重増加

大動脈縮窄症の診断

大動脈縮窄症の診断は、心エコー検査やCT、MRI検査によって大動脈の縮窄が認められた場合に確定診断となります。

聴診

 医師は胸部を聴診することで心音を聞き取ることができます。大動脈縮窄症の場合、大動脈の縮窄に伴う特徴的な心雑音が聴取されることがあります。

心電図検査

心電図は心臓の電気的な活動を記録する検査です。大動脈縮窄症の場合、左室肥大の心電図波形が見られ、重度の縮窄がある新生児や乳児の場合、右室肥大の心電図波形がみられることがあります。

胸部X線検査

胸部X線は、心臓のサイズや形状、肺の血流の状態を評価します。大動脈縮窄症によって心臓が拡大しているか、肺に過剰な血流があるかを評価する事に役立ちます。

心エコー検査

心エコー検査は、心臓の詳細な画像を提供する非侵襲的な検査です。大動脈縮窄症の確定診断には、心エコー検査が用いられます。心臓の構造と血流を視覚化し、狭くなっている弁の開口部と弁を通る血液量を描出できるため、形態診断や重症度を評価できます。大動脈縮窄症を伴う場合は、大動脈の狭窄が描出され縮窄部の流速が速くなり、乱流が認められます。

心臓CT検査

心臓CT検査は、より詳細な心臓の画像を提供する検査です。大動脈縮窄症の場合、大動脈の狭窄を同定することが可能です。

心臓MRI検査

心臓MRIは、より詳細な心臓の画像を提供する検査です。大動脈縮窄症の場合、大動脈の狭窄を同定することが可能です。

心カテーテル検査

心臓カテーテル検査は、心臓に細い管(カテーテル)を挿入し、直接心臓内部の圧力や血液の流れを測定する検査です。検査により大動脈の狭窄が描出され、狭窄部で圧差が認められます。また、カテーテルによる風船治療や手術の術式を検討するにあたって、大動脈造影検査で形態を詳細に確認するために手術前の評価として行われることがあります。

大動脈縮窄症の保存的治療・対症療法

大動脈縮窄症は、比較的軽度の縮窄であっても、いずれ心臓に負荷がかかるようになり、心不全などの症状を呈します。縮窄が有意な場合に根治術としてカテーテル治療や外科的治療の検討が必要になります。

大動脈縮窄症の治療は、病態の種類、症状の重度、および患者の全般的な健康状態に基づいて個別に適応されます。保存的治療は症状の管理と病状の進行の遅延を目的としており、対症療法は病気の根本的な原因を治療するのではなく、患者の症状を緩和し生活の質を改善することを目的としています。

経過観察

症状がなく病態が安定している場合には、経過観察が選択されることがあります。定期的な受診と検査を通じて病態の進行を把握し、適切なタイミングで治療を検討します。

薬物療法

大動脈縮窄症に伴う症状がみられる新生児においては、一時的に血流を改善する目的で動脈管を開放状態に保持するプロスタグランジン療法が行われます。プロスタグランジンE1の静脈点滴により動脈管を開いた状態に保つことで大動脈から肺動脈へ血液が流れて肺血流量が増加し、酸素の豊富な血液が全身に流れます。プロスタグランジンE1の持続点滴により状態が不安定になることがあるため、薬の投与中は綿密にモニタリングを行う必要があります。

心不全の管理

心不全の症状を軽減するために、利尿剤(利尿作用を持つ薬)心臓の収縮を改善する薬(降圧薬)などが使用される場合があります。これらの薬物は症状の改善や心機能の安定化に役立ちます。

呼吸困難の管理

呼吸困難がある場合、酸素療法が行われることがあります。これにより、患者様の酸素飽和度を改善し、呼吸困難の症状を軽減します。

栄養療法

特に新生児や乳児の場合、大動脈縮窄症によるカロリー消費の増加や哺乳中の息切れにより適切な栄養摂取が困難な場合があります。栄養士と連携して、カロリー密度の高い食事などの特別な栄養サポートが重要になります。

カテーテル治療

大動脈縮窄症の根治的治療法として、バルーン血管形成術や血管内ステント留置術が選択されることがあります。

バルーン血管形成術

 これは、カテーテルを使用した非外科的手術で、狭窄部位を拡張するためにバルーンを膨らませます。これは主に小児患者に用いられ、全身麻酔の必要が少ないためリスクが低いとされています。

しかし、再狭窄のリスクがあり、特に急速に成長する小児では、将来的にさらなる介入が必要になる可能性があります。また、狭窄部位の動脈壁が裂ける(解離)リスクも否定できません。

血管内ステント留置術

 狭窄が局所的である場合、血管内ステントを挿入することで血管を拡張し、血流を改善することができます。これは、比較的侵襲性が低く、回復時間が短い方法です。

ステントは即時の症状の改善をもたらしますが、血栓形成のリスクやステントの移動、そして再狭窄の可能性を考慮する必要があります。定期的な画像診断によるモニタリングが必要です。

大動脈縮窄症の外科的治療法(手術について)

孤立性大動脈縮窄症

他の心内奇形を合併することなく、大動脈縮窄症のみで手術を必要とする場合、多くは左側方からのアプローチで狭窄(縮窄部)の解除を行います。

狭窄の解除としては、現在は縮窄部を切除して大動脈の近位部と遠位部を直接吻合する術式(End-to-end anastomosis)が一般的ですが、以前は左鎖骨下動脈をグラフトとして用いる鎖骨下動脈フラップ法が行われたこともありました。

吻合はほぼ1時間以内で終了するため、一時的に下半身の血流を遮断して手術を行います。

心室中隔欠損症を伴う大動脈縮窄症

心臓のサイズに問題がなく、単純に閉鎖が必要な心室中隔欠損症を伴った大動脈縮窄症に対しては一期的に根治術を行います。この場合の一期的根治術とは「心室中隔欠損閉鎖術」と「大動脈縮窄解除術」を同時に行うということです。

心室中隔欠損症を閉鎖する必要がありますので、正中切開および人工心肺下に手術を行います。

 大動脈縮窄症の外科的手術 手技手順

手術方法は症例によって異なりますが、基本的な心室中隔欠損症を伴う大動脈縮窄症の手術は以下の手順にて行われます。

  1. 開胸:全身麻酔下にて、執刀医のDrが左側開胸を行います。
  2. 体外循環開始:手術中の心臓と肺の役割を人工心肺という外部の装置に任せます。心臓の動きを止める為、心筋保護液という液体を流し、心停止させます。
  3. 縮窄部の解除:縮窄部を切除して大動脈の近位部と遠位部を直接吻合します。
  4. 心室中隔欠損の修復:パッチや自己心膜を用いて心室中隔に空いた穴を防ぎ、吻合します。
  5. 心臓機能の回復:切り開いた心臓や血管を縫合し、人工心肺を停止し、心臓の動きが自然に回復することを確認します。
  6. 閉胸:患者様の全身状態に注意しながら閉胸し、手術終了です。

入院~退院後の流れと、リハビリについて

心臓手術を受ける患者の入院から退院後に至るまでのプロセスと、心臓リハビリテーションについては以下のリンクをご参照ください。
入院中のケアから、退院後の生活への適応、そして心臓リハビリテーションを通じての健康回復と生活質の向上に至るまで、ご紹介しています。

よくある質問

こちらのコラムの内容の要点を「よくある質問」からまとめています。

大動脈縮窄症(CoA)とは何ですか?

大動脈縮窄症(Coarctation of the Aorta、CoA)は、心臓から全身に酸素を豊富に含んだ血液を送り出す大動脈の一部が狭くなった状態の先天性疾患です。心臓の先天性疾患の約5%を占めます。

大動脈縮窄症の原因は何ですか?

大動脈縮窄症の原因には、特定の遺伝子変異や染色体異常による遺伝的要因、感染症や母親の摂取薬物などの環境的要因、川崎病や高度の動脈炎などの後天的要因があります。

大動脈縮窄症の症状にはどのようなものがありますか?

大動脈縮窄症の症状には、上肢の高血圧、頭痛や鼻血、胸痛やめまい、下肢の冷たさや弱い脈拍、心不全症状(呼吸困難、疲労感、体重増加)などがあります。

大動脈縮窄症の診断方法にはどのようなものがありますか?

大動脈縮窄症の診断には、胸部聴診、心電図検査、胸部X線検査、心エコー検査、心臓CT検査、心臓MRI検査、心カテーテル検査などが行われます。

大動脈縮窄症の治療方法にはどのようなものがありますか?

大動脈縮窄症の治療には、経過観察、薬物療法(プロスタグランジン療法など)、呼吸困難の管理、栄養療法、カテーテル治療(バルーン血管形成術や血管内ステント留置術)、外科的手術(心室中隔欠損症を伴う場合の手術など)が含まれます。

関連記事

【参考文献】

・国立循環器病研究センターhttps://www.ncvc.go.jp/hospital/section/ppc/pediatric_cardiovascular/tr08_coa/

・一般社団法人 日本循環器学会
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2020/02/JCS2017_ichida_d.pdf

・一般社団法人 日本循環器学会
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2020/02/JCS2018_Yasukochi.pdf

心疾患情報執筆者

心疾患情報執筆者

増田 将

株式会社増富 常務取締役

プロフィール

医療現場支援歴:10年
《主な業務歴》
・医療現場支援歴:10年
・循環器内科カテーテル治療支援:3,000症例
・心臓血管外科弁膜症手術支援 :700症例
・ステントグラフト内挿術支援 :600症例

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