株式会社増富

高度管理医療機器等販売業 許可番号 第100327号

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虚血性心疾患

大動脈解離

大動脈疾患

大動脈解離の概要

大動脈解離は、大動脈の内側の内膜が突然裂ける病態です。解離した部位によって緊急度や重症度は異なり、様々な合併症を引き起こす可能性がある突然死のリスクが最も高い重篤な疾患です。大動脈解離の最も多い原因は高血圧で、その他に先天性疾患などがあります。急性大動脈解離は、突然発症するのが特徴であり、症状を放置すれば48時間以内では50%、1週間以内は70%、2週間以内では80%の高い確率で死亡するという報告もあります。そのため、発症後は早期診断・早期治療が重要となります。

大動脈解離と動脈について

大動脈は外膜、中膜、内膜の3層で成り立っており、心臓から送り出された血液が最初に流入する太い血管で、胸部から腹部にかけて位置しています。この大動脈は横隔膜を挟んで、胸部大動脈と腹部大動脈に分けられています。胸部大動脈は、上行大動脈・弓部大動脈・下行大動脈に分けられ、そこから細い血管が分岐して頭や腕に血液を送っています。腹部大動脈は、肝臓や腎臓、胃・腸などの腹部の臓器に向けて細い血管が分岐して血液を送っています。大動脈解離は、心臓から近くの上行大動脈が解離しているかどうかにより2つのタイプに分けられます。また、発症時期によっても緊急度が異なり、下記時期と部位に分類されます。

大動脈解離の時期による分類

  • 急性期:2週間以内
  • 亜急性期:3週間から2ヶ月以内
  • 慢性期:2ヶ月以降

大動脈解離の部位による分類

スタンフォード分類(解離の範囲内の分類)

  • Stanford A型:上行大動脈に解離が起こっている状態で急性発作においては緊急手術が必要な状態。
  • Stanford B型:上行大動脈に解離が起こっていない状態で保存的治療が適応となる状態。

ドベーキ分類(大動脈の亀裂の位置と解離の範囲で分類)

  • Type I: 上行大動脈から腹部大動脈まで及ぶ
  • Type II: 上行大動脈に現局している
  • Type IIIa: 下行大動脈に限局している
  • Type IIIb: 下行大動脈から腹部にまで及ぶ

大動脈解離により内膜が裂け侵入した血液が中膜に流れ込むと中膜内に偽腔を形成します。偽腔の外側には外膜しかないので、血圧により外膜が破れ、血管外に出血すれば致命的な事態を招くことになります。解離が枝分かれした分岐部に及ぶと、偽腔が枝分かれした血管を塞ぎ、その先の臓器に血液が流れにくくなってしまいます。偽腔には3つの下記種類があります。

偽腔の種類

偽腔開存型

エントリーから流入した血液がリエントリーから流出し、偽腔の中に血流がある状態。

ULP型

偽腔の大部分に血流を認めないが、裂け目の近傍に限局した偽腔の中に血流がある状態。

偽腔血栓閉塞型

偽腔が血栓で完全に塞がり血流がない状態。

大動脈解離 発症の原因

大動脈解離で最も多い原因は高血圧であり、その他に動脈硬化、先天性疾患、炎症性疾患などに起因するものがあります。主に以下の様な原因が考えられます。

高血圧

高血圧は大動脈解離の最も多い原因です。高い血圧が大動脈の壁にかかると、その壁が弱くなり、内膜が裂けやすくなります。

動脈硬化

動脈硬化は、動脈の壁が硬くなり、弾力性を失う状態です。これにより、大動脈の壁が脆くなり、解離が起こりやすくなります。

先天性心疾患

マルファン症候群、ターナー症候群やエーラース・ダンロス症候群、ロイス・ディーツ症候群などの先天性心疾患は、大動脈の壁が元々弱いため、解離のリスクが高まります。また、通常3枚ある大動脈弁の弁尖ですが、先天性異常の2弁尖では大動脈の壁に異常を伴うことがあり、解離の発症リスクを高めます。

炎症性疾患

特定の炎症性疾患、例えば動脈炎も大動脈の壁を弱め、解離のリスクを高める可能性があります。

その他

  • 交通事故や墜落などの外傷が大動脈に直接的なダメージを与えることで、解離が発生する可能性があります。
  • ・妊娠中は体内のホルモンバランスの変化や血流量の増加によって大動脈解離のリスクが高まる場合があります。
  • ・コカインやアンフェタミンなどの刺激性のある薬物は、血圧を急激に上げる可能性があり、これが大動脈解離を引き起こすことがあります。
  • ・加齢によって大動脈の壁が自然に弱くなることもあり、特に高齢者では解離のリスクが高まる場合があります。

大動脈解離の症状

大動脈解離の症状の一番の特徴は、胸あるいは背中に突然の激痛が走ることです。また、大動脈分岐部の狭窄・閉塞症状と大動脈の破裂症状などが重なり、多様な症状が現われることがあります。以下は大動脈解離の主な症状です。

突然の激しい疼痛

大動脈解離の最も一般的な症状は、突然の急激な胸痛で、非常に激しい痛みが胸の中央または背中に発生します。痛みは、「裂ける」または「引き裂かれる」などといった表現がなされ、解離が進むにつれ、痛みが胸から腹、脚など、体の様々な場所に移動する場合があります。

偽腔による狭窄・閉塞症状

以下図は偽腔による狭窄・閉塞による部位別症状・合併症状となります。

大動脈解離の診断

心電図検査

心電図は心臓の電気的な活動を記録する検査です。大動脈解離の合併症である心筋梗塞など併発している場合には特徴的な心電図の波形が現れることがあります。

X線検査

X線検査は、心臓や肺の画像を提供する検査です。縦郭陰影の拡大や弓部の突出などの特徴的な大動脈解離の所見が見られることがあります。

心エコー検査

心エコー検査は、心臓の詳細な画像を提供する非侵襲的な検査です。大動脈基部や弓部の乖離の有無、大動脈弁閉鎖不全症、心筋梗塞、心タンポナーデなどの合併症の有無や程度を調べるのに有用です。

血液検査

血液検査は、採血を行い血液中の血球成分を測定する検査です。血管の炎症や凝固線溶系の活性化が起こるとD-ダイマーの上昇が見られるので大動脈解離の可能性が高まります。また、炎症値の上昇や出血により貧血が見られることがあります。血液検査は心筋梗塞などの鑑別診断にも有用です。

造影CT検査

造影CT検査は、血管や病変をより詳しく調べるために造影剤を静脈から注入しながら、X線を体の周囲に照射して輪切りの断面画像を抽出する検査です。大動脈解離が疑われた場合は、造影CT検査で確定診断が行われます。造影CT検査では、解離の範囲と程度、破裂の部位と程度、大動脈解離の分類や枝分かれした動脈の状態などの緊急性の評価や診断と治療に必要な情報が全て得られます。

心臓MRI検査

心臓MRIは、より詳細な心臓の画像を提供する検査で、大動脈解離の範囲や状態が把握できます。大動脈解離の詳細な評価が必要な場合に行われます。

大動脈解離の保存的治療、対症療法

大動脈解離の治療は、解離が存在する部位によって治療方法が異なります。緊急手術を必要としない場合は、血圧コントロールと疼痛を軽減する薬を使用しながら、保存的治療を行います。上行大動脈など心臓の近くに解離が存在するStanford A型大動脈解離の場合、心破裂、心筋梗塞、急性心不全などの致命的な合併症が起きる可能性が高いため、原則として緊急手術が必要です。一方、上行大動脈に解離がないStanford B型大脈解離は、保存的治療の血圧コントロールを図ることで手術を回避できる場合があります。

血圧管理

まず大動脈解離がこれ以上進行しないように、Ca拮抗薬、β遮断薬や硝酸薬などを用いて血圧100~120mmHgを目標に血圧コントロールを図ります。また、同じく心拍数を制御することで、大動脈にかかる負荷を減らします。心拍数と血圧を下げることで、解離の進行を抑え様々な合併症を予防することにもつながります。

疼痛管理

激しい胸痛や背中の痛みがある場合、解離の進行や合併症を引き起こす可能性があります。解離の進行と合併 症予防、疼痛を和らげるためにオピオイド鎮痛薬や非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)が用いられることがあります。

呼吸困難の管理

呼吸困難がある場合、酸素療法が行われることがあります。これにより、患者様の酸素飽和度を改善し、呼吸困難の症状を軽減します。

大動脈解離の外科的治療(手術)

大動脈解離の外科的治療は、スタンフォードA型とB型で違ってきます。

上行大動脈に解離があるA型は、急死に至る合併症(心タンポナーデ、心筋梗塞、大動脈弁閉鎖不全症、急性心不全など)を生じやすいため、緊急手術が必要です。

一方、上行大動脈に解離がないB型は、大動脈が破裂していたり、血液が充分に届かず臓器に障害が起こったりしているときには緊急手術が必要ですが、それ以外は、まずは血圧を下げ、解離がそれ以上進行しないよう、また、合併症が起こらないよう管理します。

スタンフォードA型の治療

A型の解離に対する手術としては、上行大動脈への人工血管置換術、あるいは上行大動脈プラス弓部大動脈への人工血管置換術などが行なわれます。解離し損傷した血管を人工血管に置き換える手術です。

スタンフォードB型の治療

大動脈が破裂していたり、各臓器に充分な血液が届かなくなっていたりする場合は、B型の解離であっても、下行大動脈や腹部大動脈への人工血管置換術、あるいはステントグラフト内挿術やハイブリッド治療が行なわれます。

解離の範囲が局限され、各臓器への血流が維持されている場合は、薬物治療(血圧を下げる降圧治療)を行ないながら、経過を観察します。

人工血管置換術

人工血管置換術は、主に上行大動脈や弓部大動脈の解離に対して行なわれます。症例や術式にもよりますが、基本的には以下のような手順で手術が行われます。

  1. 開胸:全身麻酔下にて、執刀医のDrが開胸を行います。
  2. 体外循環開始:手術中の心臓と肺の役割を人工心肺という外部の装置に任せます。大動脈の血流を遮断し、心筋保護液という薬剤を心臓に流し、心臓の拍動を停止させ、心臓の動きを完全に停止させます。
  3. 循環停止:脳への血流以外の全ての血流を遮断します。
  4. 人工血管の縫合:解離した血管を取り除き、人工血管を吻合します。
  5. 循環再開:人工心肺からの全身の血流を再開させます。
  6. 体外循環再開:心臓の拍動を再開させて、人工心肺を停止します。
  7. 閉胸:患者様の全身状態に注意しながら閉胸し、手術終了です。

ステントグラフト内挿術

ステントグラフトとは、人工血管にステントと言われるバネ状の金属を取り付けたものです。これを圧縮した状態でカテーテル(細い管)の中に収納し、カテーテルを治療する部位(解離したところ)にまで運び(足の付け根などから動脈に入れて移動させます)、その場所でステントグラフトを広げて留置します。

人工血管置換術が胸を切り開く手術であるのに対し、ステントグラフトはカテーテルを利用した傷の小さな手術です。そのため、手術後の痛みが少なく、手術時間も入院期間も短くなります。さらに血管の損傷、臓器虚血、血栓塞栓症などといった合併症の発生率は、人工血管置換術よりも低いレベルにあります。しかし、スタンフォードA型などの緊急性が伴う症例に関しては人工血管置換術が選択されます。

ステントグラフトのデメリットは、手術中や手術後、発熱や胸水貯留などが発生することです。また退院後も、ステントグラフトの変形・破損・移動・感染などに注意が必要です。

入院~退院後の流れと、リハビリについて

心臓手術を受ける患者の入院から退院後に至るまでのプロセスと、心臓リハビリテーションについては以下のリンクをご参照ください。
入院中のケアから、退院後の生活への適応、そして心臓リハビリテーションを通じての健康回復と生活質の向上に至るまで、ご紹介しています。

よくある質問

こちらのコラムの内容の要点を「よくある質問」からまとめています。

大動脈解離とは何ですか?

大動脈解離は、大動脈の内膜が突然裂ける重篤な病態です。高血圧や先天性疾患が主な原因であり、胸や背中に突然の激痛を伴うことが特徴です。

大動脈解離の分類にはどのようなものがありますか?

大動脈解離はスタンフォード分類とドベーキ分類で区別されます。スタンフォード分類では上行大動脈に解離があるA型とないB型に、ドベーキ分類では解離の範囲に基づいて分類されます。

大動脈解離の診断方法は何ですか?

大動脈解離の診断には、心電図検査、X線検査、心エコー検査、血液検査、造影CT検査、心臓MRI検査などが用いられます。これらの検査によって、解離の有無や範囲、合併症の有無などが確認されます。

大動脈解離の治療方法にはどのようなものがありますか?

大動脈解離の治療は解離の位置や状態によって異なり、保存的治療(血圧管理や疼痛管理など)や緊急手術(人工血管置換術、ステントグラフト内挿術など)が行われます。

大動脈解離の予後はどうですか?

大動脈解離は重篤な病態であり、適切な治療を受けないと高い死亡率を伴います。早期診断と迅速な治療が重要で、治療後の経過にも注意が必要です。

関連コラム

【参考文献】

・国立循環器病研究センター
https://www.ncvc.go.jp/hospital/pub/knowledge/disease/aortic-aneurysm_dissection/

・日本血管外科学会
https://www.jsvs.org/common/kairi/index.html

・日本脈管学会
http://j-ca.org/wp/wp-content/uploads/2016/04/4801_2.pdf

・2020年改訂版 大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドライン
一般社団法人 日本循環器学会
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2020/07/JCS2020_Ogino.pdf

心疾患情報執筆者

心疾患情報執筆者

増田 将

株式会社増富 常務取締役

プロフィール

医療現場支援歴:10年
《主な業務歴》
・医療現場支援歴:10年
・循環器内科カテーテル治療支援:3,000症例
・心臓血管外科弁膜症手術支援 :700症例
・ステントグラフト内挿術支援 :600症例

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