株式会社増富

高度管理医療機器等販売業 許可番号 第100327号

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虚血性心疾患

感染性心内膜炎

その他心疾患

感染性心内膜炎の概要

感染性心内膜炎は、心臓の内膜や心臓弁に細菌が感染することで発症する重篤な疾患です。感染性心内膜炎は、血流中の細菌が心臓の弁や内膜に付着し、増殖することで発症します。特に、心臓弁に先天的な異常や損傷、人工心臓弁を持つ人は、感染のリスクが一気に高まります。また、歯科治療や手術、皮膚の感染症などが細菌の血流への侵入経路となることがあります。弁の細菌感染は、弁自体を破壊するだけでなく様々な症状や生命を脅かす重篤な合併症を引き起こすことがあります。

感染性心内膜炎 発症の原因

心臓弁に先天的な異常や損傷、人工心臓弁を持つ人は、感染性心内膜炎のリスクが一気に高まります。また、歯科治療や手術、皮膚の感染症などが細菌の血流への侵入経路となることがあります。以下は感染性心内膜炎の主な原因です。

血流中の細菌

感染性心内膜炎の最も多い原因は、血流中に存在する細菌が心臓の弁や内膜に付着し、増殖することです。細菌が血流に入る経路としては、歯科治療、皮膚の感染、手術、カテーテルや静脈内注射などが考えられます。

心臓の弁や内膜の損傷

心臓の弁や内膜の損傷が原因で感染性心内膜炎が起こることがあります。健康な心臓の弁や内膜は、通常、細菌の付着を防ぐ働きを持っています。しかし、先天的な心臓疾患、リウマチ性心疾患、心臓手術の歴史などにより、弁や内膜に損傷が生じている場合、細菌が付着しやすくなります。

免疫系の低下

免疫力が低下している人は、細菌に対する体の防御力が弱まるため、感染性心内膜炎のリスクが高まります。HIV感染、糖尿病、がん治療などが免疫力の低下を引き起こす要因として知られています。

人工心臓弁の使用

人工心臓弁を持つ人は、細菌が付着しやすいため、感染性心内膜炎のリスクが高まります。このため、人工弁を持つ人は、歯科治療や手術前に予防的な抗生物質の投与を受けることが推奨されています。

感染性心内膜炎の症状

感染性心内膜炎の症状は多岐にわたります。以下は感染性心内膜炎の主な症状です。

発熱

最も一般的な症状の一つで、突然の高熱や持続的な微熱が現れることがあります。特に、夜間の発汗や悪寒を伴うことが多いです。

心不全症状

弁の機能障害により、息切れ、浮腫、疲労感などの心不全の症状が現れることがあります。

皮膚の変化

  • ペテキア:手足や粘膜に小さな赤紫色の点状出血が現れるペテキアがあります。
  • オスラー結節:指先や足の裏に痛みを伴う小さな隆起が現れるオスラー結節があります。
  • ジャネウェイ病変:手のひらや足の裏に痛みを伴わない赤い斑点が現れるジャネウェイ病変があります。

眼の変化

網膜に出血や浮腫を伴う白い斑点が現れるロス病変があります。

脳神経の症状

感染した細菌の塊が脳に運ばれることで、脳卒中のような症状や髄膜炎の症状が現れることがあります。

その他の症状

その他に、関節痛、筋肉痛、腹痛、胸痛などの全身症状が現れることがあります。

感染性心内膜炎の症状は非常に多岐にわたり、初期段階では他の疾患との鑑別が難しいことがあります。症状の発現や進行は、感染している細菌の種類や感染部位、患者の基礎疾患などによって異なります。不明な発熱や上記症状が現れた場合は医療機関へ受診し適切な診断と治療を受けることが重要です。

感染性心内膜炎の診断

感染性心内膜炎は、心内膜、特に弁膜に病原菌が感染することにより疣贅とよばれる感染巣を形成することがあり、これが確定診断の有用な所見となります。感染性心内膜炎は多彩な症状や重篤な合併症を引き起こすため、正確な早期診断と治療が非常に重要です。以下は感染性心内膜炎の検査と診断方法です。

聴診

医師は胸部を聴診することで心音を聞き取ることができます。感染性心内膜炎では、血流障害による心雑音が聴取されることがあります。

心電図検査

心電図は、心臓の電気的な活動を記録する検査です。弁膜症を合併している場合は心筋肥大の所見や心房細動波形などが見られることがあります。

胸部X線検査

胸部X線検査は、心臓や肺の画像を提供する検査です。感染性心内膜の合併症による肺のうっ血や心臓の拡大などの心不全像の所見がみられることがあります。

血液検査

血液検査は、採血を行い血液中の血球成分を測定する検査です。通常の血液検査では感染性心内膜炎の発症に伴う白血球の上昇やCRPの上昇が見られることがあります。感染の原因となる細菌を同定するためには、血液培養検査を複数回行う必要があります。血液培養検査は、感染している細菌の種類や抗生物質に対する感受性を調べることが可能であり、確定診断に有用な検査です。

心エコー検査

心エコー検査は、心臓の詳細な画像を提供する非侵襲的な検査です。感染性心内膜炎では、心臓弁に形成された疣贅(細菌の塊)や弁の損傷を確認することができます。特に心臓のすぐ後ろにある食道側から心臓を観察できる経食道心エコー検査は、感染性心内膜炎の確定診断に最も有用な検査です。

CT検査

CT検査は、エックス線を用いて輪切りの画像を撮影する検査です。感染性心内膜炎の確定診断に用いられる経食道心エコー検査で十分な情報が得られない場合にCT検査が行われます。また、感染性心内膜炎によって感染が広がることで合併症の動脈瘤が引き起こされることがあり、動脈瘤の有無についてもCT検査が用いられます。感染性心内膜炎によって全身の各臓器に細菌が広がると脳、腎臓、肝臓、脾臓などの主要な臓器に膿瘍(細菌の巣)を作る可能性があり、これらの精査にもCT検査が必要となります。

頭部MRI検査

 頭部MRI検査は、より詳細な頭部の画像を提供する検査です。感染性心内膜炎によって感染が広がることで合併症の動脈瘤が引き起こされることがあります。通常は抗生剤の治療で改善しますが、破裂した場合は脳外科にて緊急手術が必要になります。動脈瘤が診断された場合には、頭部MRI検査にて脳の血管に動脈瘤がないかを検査する必要があります。細菌が各臓器に広がると脳、腎臓、肝臓、脾臓などの主要な臓器に膿瘍(細菌の巣)を作る可能性があり、これらの精査にも頭部MRIが必要となります

感染性心内膜炎の保存的治療・対症療法

感染性心内膜炎は、心臓の内膜や心臓弁に細菌が感染することで発症する疾患です。治療には、保存的治療と手術治療の2つのアプローチがあります。以下は主な保存的治療と対症療法です。

抗生物質治療

感染性心内膜炎の主要な治療は、感染の原因となる細菌の種類や抗生物質に対する感受性に基づいて、最も効果的な抗生物質で治療することです。通常、6-8週間の抗生物質の治療が必要です。治療期間は感染している細菌の種類や感染の重症度、合併症の有無によって異なります。

合併症の管理

感染性心内膜炎は、心臓以外の臓器にも影響を及ぼすことがあります。したがって、合併症の予防や管理も保存的治療の一部として重要です。

脳卒中の予防

感染した細菌の塊(疣贅)が脳に運ばれることで、脳卒中のリスクが高まります。抗血栓薬や抗凝固薬の使用を検討することがあります。

心不全の管理

心臓弁の損傷や破壊により、心不全症状が現れることがあります。必要に応じて、利尿薬やACE阻害薬、β遮断薬などの心不全治療薬を使用します。

呼吸困難の管理

呼吸困難がある場合、酸素療法が行われることがあります。これにより、患者様の酸素飽和度を改善し、呼吸困難の症状を軽減します。

感染性心内膜炎の外科的治療(手術について)

感染性心内膜炎は、抗生物質などの保存的治療が中心となりますが、心臓弁の損傷や破壊による重篤な心不全、感染した細菌の塊(疣贅)が繰り返し他の臓器に運ばれ塞栓症状を引き起こす場合、感染が人工心臓弁に及んでいる場合、抗生物質の治療でも改善がみられない持続的な感染の場合など外科的治療が必要となることがあります。

感染性心内膜炎の手術の大きな目的は感染箇所や疣贅を取り除くこと、取り除いた部位の修復を行うこととなります。心臓弁が感染している場合が多いため、心臓弁をある程度切除せざるを得ない場合には人工弁に付け替える手術を選択することになります。

また、感染が及んでいた弁が僧帽弁だった場合、ある程度弁が残るのであれば人工弁を付けずに弁を形成することも可能です。一方で、大動脈弁に感染が及んでいた場合には、基本的には人工弁へ付け替えられます。また、三尖弁や肺動脈弁が感染することはまれですが、三尖弁も人工弁への付け替えが必要となるケースが多いです。

手技手順

具体的な手術方法は症例によって異なりますが、一般的には弁置換術や弁形成術を行います。基本的には手術は以下のような手順で行われます。

  1. 開胸:全身麻酔下にて、執刀医のDrが開胸を行います。
  2. 体外循環開始:手術中の心臓と肺の役割を人工心肺という外部の装置に任せます。心筋保護液という薬剤を心臓に流し、心臓の拍動を停止させ、心臓の動きを完全に停止させます。
  3. 感染部位の切除/心臓弁の修復:心臓を切り開き、感染箇所や疣贅を取り除きます。必要に応じて弁置換や弁形成などを使い、弁組織の修復が行われます。
  4. 心臓機能の回復:切り開いた心臓を縫合し、HotShot(温めた血液と心筋保護液の混合液)にて心臓を拍動させた後、人工心肺を停止し、心臓の動きが自然に回復することを確認します。
  5. 閉胸:患者様の全身状態に注意しながら閉胸し、手術終了です。

入院~退院後の流れと、リハビリについて

心臓手術を受ける患者の入院から退院後に至るまでのプロセスと、心臓リハビリテーションについては以下のリンクをご参照ください。
入院中のケアから、退院後の生活への適応、そして心臓リハビリテーションを通じての健康回復と生活質の向上に至るまで、ご紹介しています。

よくある質問

こちらのコラムの内容の要点を「よくある質問」からまとめています。

感染性心内膜炎とは何ですか?

感染性心内膜炎は、心臓の内膜や弁に細菌が感染することで発生する重篤な疾患です。この病気は血流中の細菌が心臓の弁や内膜に付着して増殖することにより発症します。

感染性心内膜炎の主な原因は何ですか?

主な原因には血流中の細菌、心臓の弁や内膜の損傷、免疫系の低下、人工心臓弁の使用があります。特に、歯科治療、皮膚の感染、手術などが細菌の血流への侵入経路となることがあります。

感染性心内膜炎の症状にはどのようなものがありますか?

主な症状には発熱、心不全症状(息切れ、浮腫、疲労感)、皮膚の変化(ペテキア、オスラー結節、ジャネウェイ病変)、眼の変化(ロス病変)、脳神経の症状などがあります。

感染性心内膜炎の診断方法には何がありますか?

診断方法には聴診、心電図、胸部X線、血液検査、心エコー検査、CT検査、頭部MRI検査などがあります。これらの検査により、感染部位や症状の詳細な情報を得ることができます。

感染性心内膜炎の治療方法は何ですか?

治療方法には抗生物質による治療、合併症の管理、外科的手術があります。抗生物質治療は通常6-8週間行われ、必要に応じて心臓弁の修復や交換などの外科手術が行われます。

関連コラム

【参考文献】

・日本感染症学会
https://www.kansensho.or.jp/ref/d10.html

・一般社団法人日本循環器学会 
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2020/02/JCS2017_nakatani_h.pdf

・感染性心内膜炎の外科治療
一般社団法人日本循環器学会 
https://jscvs.or.jp/surgery/2_8_syujutu_sinnaimakuen/

心疾患情報執筆者

心疾患情報執筆者

増田 将

株式会社増富 常務取締役

プロフィール

医療現場支援歴:10年
《主な業務歴》
・医療現場支援歴:10年
・循環器内科カテーテル治療支援:3,000症例
・心臓血管外科弁膜症手術支援 :700症例
・ステントグラフト内挿術支援 :600症例

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