株式会社増富

高度管理医療機器等販売業 許可番号 第100327号

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洞不全症候群

不整脈

洞不全症候群とは

定義と概要

洞不全症候群(Sick Sinus Syndrome:SSS)は、不整脈の一種であり、心臓の洞房結節が適切に機能しないために生じる不規則な心拍を特徴とする状態の総称です。洞房結節は、心臓の自然なペースメーカーとして機能し、心臓の拍動を調節します。洞不全症候群は、心拍が遅くなる洞性徐脈、速くなる洞性頻脈、また不規則な徐脈と頻脈を繰り返す不整脈などに分類され、徐脈に起因する脳虚血症状や心不全症状を呈する事があります。

洞不全症候群の分類

洞不全症候群は、ルーベンシュタイン(Rubenstein)分類によって、Ⅰ群〜Ⅲ群の3つに分類されます。
洞不全症候群によって脳虚血症状や心不全症状がある場合はペースメーカー植え込みの適応となることがあります。

Ⅰ群:洞性頻脈

原因不明の洞性徐脈(50回/分以下)であり、洞結節からの電気信号が一定時間停止することにより徐脈となります。

Ⅱ群:洞停止あるいは洞房ブロック

洞結節から発生した電気信号が心房に伝わらないことにより徐脈となります。Ⅱ型ではPP間隔で洞房ブロックか洞停止かを鑑別します。

洞停止

洞結節が一時的に活動を停止する現象として、心電図上で3秒以上P波が見られない場合を洞停止(sinus arrest:サイナス アレスト)といいます。洞結節からの刺激が心房に伝導されないことによって引き起こされます。心電図上ではP波の脱落がみられ、PP間隔は洞調律時の整数倍となります。

洞房ブロック

洞結節の興奮が起きないことにより起こります。心電図上ではP波の脱落がみられ、PP間隔は規則性がなく、洞調律時の非整数倍となります。

Ⅲ群:徐脈頻脈症候群

不規則な徐脈と頻脈を繰り返す不整脈の総称であり、上室性頻脈性不整脈である心房粗動や心房細動の停止直後に洞結節からの電気信号が出現せず、徐脈や洞停止になることがあります。洞不全症候群の失神の原因は、Ⅲ群が多いと言われています。

洞不全症候群の原因

洞不全症候群の原因は多岐にわたり、洞結節細胞群の障害や洞結節から心房への電気刺激の伝わり方が障害されることにより引き起こされます。以下は洞不全症候群の主な要因となります。

加齢による変化

加齢は、心臓組織の自然な老化プロセスを通じて洞房結節の機能低下を引き起こす主要な原因の一つです。加齢により心拍数の調節が障害され不規則な心拍が生じる可能性があります。

心臓病や他の疾患による影響

  • 心筋梗塞や冠動脈疾患などの心臓病は、洞房結節への血流を妨げ、その機能不全を引き起こす可能性があります。
  • 高血圧や心房細動は、心臓に追加のストレスをかけ、洞不全症候群のリスクを高めます。
  • 糖尿病や甲状腺疾患など、心臓以外の疾患も洞房結節の機能に影響を与え、洞不全症候群を引き起こす可能性があります。

洞不全症候群の症状と診断

洞不全症候群は、それぞれの不整脈における特徴的な心電図の所見から診断が確定されます。症状の特徴、診断のための検査方法について詳細に説明します。

洞不全症候群の症状と診断

症状の特徴

洞不全症候群は、心拍の不規則性や重症度によって異なり、様々な症状があります。以下は洞不全症候群の主な症状です。

  • めまい
  • 失神
  • 胸痛
  • 息切れ
  • 疲労感

洞停止時間の持続によって心拍出量が激減すると、脳への血液灌流が不十分となり、一過性の失神発作のアダムス・ストークス発作を引き起こす可能性があります。これらの症状は、日常生活における患者の活動能力や生活の質に大きな影響があります

診断のための検査方法

洞不全症候群の診断には、以下の検査が一般的に用いられます。

  • 心電図(ECG):心臓の電気活動を記録し、心拍の異常を検出します。
  • ホルター心電図検査(24時間心電図):長時間にわたって心臓の活動を監視し、日常生活中に発生する不規則な心拍を捉えます。
  • 運動負荷試験:運動中の心臓の反応を評価し、心拍数の変化や不整脈の存在を検出します。

これらの検査により、洞房結節の機能不全および心拍の異常が評価され、適切な治療方針が決定されます。

洞不全症候群の治療法

主な治療の目的は、症状を管理し心拍数を正常化することです。ここでは、治療法についての一般的な治療法、薬物療法、およびペースメーカーの挿入について詳しく説明します。

一般的な治療法

治療計画は、患者の症状や生活スタイル、他の健康上の問題などを考慮して個別に調整されます。目標は、症状を効果的に管理し、患者の生活の質を改善することです。

薬物療法

薬物療法は、洞不全症候群の症状を軽減し心拍数を管理するための主要な治療法の一つです。治療には以下の薬剤が使用されることがあります。

  • 徐脈の場合、特定の薬剤の使用を避ける必要があります。これは、これらの薬剤が心拍数をさらに低下させる可能性があるためです。
  • 頻脈の場合、β遮断薬やカルシウムチャネル遮断薬が処方されることがあります。これらの薬剤は、心拍数を減少させることにより症状を管理します。

ペースメーカー挿入

ペースメーカーの挿入は、特に徐脈を伴う洞不全症候群の患者にとって重要な治療となる場合があります。ペースメーカーは、心臓に電気刺激を与え心拍数を正常に維持するために有用な治療です。しかし、ペースメーカーがすべての患者にとって最適な治療法とは限らず、症状の程度や他の健康状態に応じて、薬物療法や経過観察が適切な場合もあります。

生活習慣の調整

生活習慣の変更は、洞不全症候群の管理において重要な要素です。心臓に優しい生活習慣を取り入れることで、症状の管理と全体的な健康の向上が期待できます。

食生活と運動

バランスの取れた食事と定期的な運動は、心臓の健康を促進し、洞不全症候群のリスクを低減します。塩分や加工食品の摂取を控え、果物、野菜、全粒穀物を多く含む食事を心がけることが大切です。

ストレス管理

ストレスは心拍数に影響を与える可能性があります。リラクゼーションや適切な休息などにより、ストレスを管理することが重要です。

緊急時の対応

洞不全症候群の患者は、症状出現時の急変に備えることが重要です。緊急事態が発生した場合の対処法を知っておくことで、迅速に対応することができます。

急変時の対処法

失神や重度のめまいなどの症状が突然現れた場合は、すぐに安全な場所に移動し、横になって足を高くして血流を促進させましょう。これは一時的な対処法に過ぎず、症状が改善しない場合は医療機関への連絡が必要です。

洞不全症候群の予後と管理

洞不全症候群の患者は適切な治療と管理によって活動的な生活を続けることができます。長期的な管理と生活の質を高めるためのサポートは重要です。

長期的な管理

洞不全症候群の管理は、患者の状態を長期にわたって監視し、必要に応じて治療計画を調整することに重点を置きます。長期的な管理において、患者が症状の変化に対応し、最適な健康状態を維持できるよう支援します。

フォローアップと定期検査

  • 定期的なフォローアップと検査は、洞不全症候群の管理において不可欠です。これには、心電図(ECG)やホルター心電図検査(24時間心電図)を含む心臓機能の評価が含まれます。
  • これらの検査により、治療計画の有効性を評価し、症状の変化や新たな健康問題に対応するための調整が可能になります。

ペースメーカーの調整とメンテナンス

  • ペースメーカーを使用している患者には、定期的なデバイスのチェックが必要です。これには、電池寿命の監視、リードの位置の確認、および設定の調整が含まれます。
  • これらのメンテナンス作業は、ペースメーカーの最適な機能を保証し、患者の心臓リズムの安定を支援します。

入院~退院後の流れと、リハビリについて

心臓手術を受ける患者の入院から退院後に至るまでのプロセスと、心臓リハビリテーションについては以下のリンクをご参照ください。
入院中のケアから、退院後の生活への適応、そして心臓リハビリテーションを通じての健康回復と生活質の向上に至るまで、ご紹介しています。

まとめ

洞不全症候群は、心臓の自然なペースメーカーである洞房結節の機能不全によって生じる複雑な状態であり、不規則な心拍や心拍数の異常を引き起こしますが、適切な治療と管理によって、患者は活動的な生活を続けることが可能です。

よくある質問

こちらのコラムの内容の要点を「よくある質問」からまとめています。

洞不全症候群とは何ですか?

洞不全症候群は、心臓の自然なペースメーカーである洞房結節が適切に機能しないために生じる不規則な心拍を特徴とする不整脈の総称です。洞性徐脈、洞性頻脈、徐脈頻脈症候群などの異なるタイプがあります。

洞不全症候群の原因は何ですか?

主な原因には加齢による変化、心筋梗塞や冠動脈疾患などの心臓病、高血圧、糖尿病、甲状腺疾患などがあります。これらの要因は洞房結節の機能低下や心拍調節の障害を引き起こす可能性があります。

洞不全症候群の治療法にはどのようなものがありますか?

洞不全症候群の治療には、薬物療法(β遮断薬やカルシウムチャネル遮断薬など)やペースメーカーの挿入が含まれます。治療の目的は、症状を管理し、心拍数を正常化することです。

ペースメーカーはいつ適応されますか?

特に徐脈を伴う洞不全症候群の患者において、症状が顕著で生活の質に影響を与える場合や、薬物療法で効果が得られない場合にペースメーカーの挿入が適応されることがあります。

洞不全症候群の予後はどうですか?

適切な治療と管理により、多くの患者は活動的な生活を続けることができます。定期的なフォローアップと検査が重要であり、症状の変化に応じて治療計画の調整が必要になることがあります。

関連コラム

【参考文献】

・一般社団法人 日本循環器学会
不整脈の診断とリスク評価に関するガイドライン
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2022/03/JCS2022_Takase.pdf

・一般社団法人 日本循環器学会
不整脈非薬物治療ガイドライン(2018 年改訂版)
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2018/07/JCS2018_kurita_nogami.pdf

・一般社団法人 日本循環器学会
不整脈薬物治療ガイドライン
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2020/01/JCS2020_Ono.pdf

・株式会社増富
不整脈とは 
https://docs.google.com/document/d/1-iLPW9fRw6SGckGipC4ln2S1v3tB0mEwMjkB1UcSMRw/edit#heading=h.r87kyxn5jk1a

・株式会社増富
ペースメーカーとは 
https://docs.google.com/document/d/1wJMdeVjMxneiWZ_1PZBxpOBvVxGJBhg4kKJRw3PPeg0/edit#heading=h.qqu4896h3f0

心疾患情報執筆者

心疾患情報執筆者

竹口 昌志

看護師

プロフィール

看護師歴:11年
《主な業務歴》
・心臓血管センター業務
(循環器内科・心臓血管外科病棟)
・救命救急センター業務
(ER、血管造影室[心血管カテーテル、脳血管カテーテル]
内視鏡室、CT・MRI・TV室など)
・手術室業務
・新型コロナウイルス関連業務
(PCR検査センター、コロナ救急外来、HCU、コロナ病棟、
コロナ療養型ホテル、コールセンター)

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