株式会社増富

高度管理医療機器等販売業 許可番号 第100327号

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虚血性心疾患

 ECMO(体外式膜型人工肺)

機械的補助循環装置

ECMO(体外式膜型人工肺)の概要

ECMO(体外式膜型人工肺)はextracorporeal membrane oxygenationの略であり、肺や心臓の機能が重度に障害された患者に一時的な補助を提供するための治療方法です。この治療技術は、患者の血液を体外に引き出し、人工的に酸素を供給し二酸化炭素を除去した後、再び体内に戻すことで、肺や心臓の負担を軽減します。ECMOは、主に重度の心肺障害があり、従来の治療法では改善が見込めない患者に適用されます。

 ECMO(体外式膜型人工肺)の定義と基本原理

ECMOは、体外循環技術の一つであり、主に心臓や肺に代わって血液中の酸素交換を行います。このプロセスでは、患者の血液を体外に導き、人工的な肺を使用して酸素を供給し、二酸化炭素を除去した後、体内に戻します。この治療は一時的なものであり、肺や心臓が自らの機能を回復することを目的としています。

ECMOの基本原理は、酸素化と二酸化炭素の除去を体外で行うことにより、心臓や肺への負担を減少させ、これらの臓器が回復するための数週間の間に治療を行います。

 ECMO(体外式膜型人工肺)の主要なタイプ

静脈-動脈ECMO (VA-ECMO)

VA-ECMOは、心臓と肺の両方の機能を補助するために使用されます。この方法では、患者の静脈から血液を抽出し、酸素を供給してから動脈に戻します。このプロセスにより、血液は全身に酸素を運ぶことができます。VA-ECMOは、特に心停止や重度の心不全の患者に適用されます。

静脈-静脈ECMO (VV-ECMO)

VV-ECMOは、主に肺機能のみを補助するために使用されます。このタイプでは、患者の静脈から血液を抽出し、酸素化した後に再び静脈に戻します。VV-ECMOは、ARDS(急性呼吸窮迫症候群)や肺炎など、肺の障害が主な問題である患者に適用されます。

心臓に関する適用条件

急性心筋梗塞

定義: 心筋への血流が急激に阻害され、心筋組織が壊死する状態。

ECMO適用の理由: 心筋梗塞が引き起こす心機能の急激な低下をサポートし、損傷した心筋が回復するまでの一時的な支援を提供するため。

適用のタイミング: 伝統的な再血管形成手術や治療が不可能または効果が限定的で、心原性ショックを引き起こしている場合に適用される。

心筋症

定義: 心筋の機能障害や構造異常を伴う一連の疾患。

ECMO適用の理由: 進行性の心機能低下を補助し、特に心移植を検討している患者において、移植可能な状態に至るまでのブリッジング治療として使用される。

特記事項: 慢性状態の患者に対する適用は慎重に検討する必要がある。

心原性ショック

  • 定義: 心臓が十分な血液を全身に供給できなくなる状態。
  • ECMO適用の理由: 致命的な心原性ショックに対して急速に循環支援を提供し、生存率を向上させるため。
  • 適用のタイミング: 従来の薬物治療や介入手術が不十分な場合に選択される。

敗血症

  • 定義: 全身性の感染症によって引き起こされる極めて重篤な状態。
  • ECMO適用の理由: 敗血症による重度の心機能障害や心原性ショックに対して、一時的な循環補助を提供するため。
  • 特記事項: 敗血症による心機能障害は薬物治療と併用して管理されることが多い。

低体温症

  • 定義: 体温が極端に低下した状態。
  • ECMO適用の理由: 低体温症による心機能の障害や心停止の場合、体を安全に再温するためにECMOが使用される。
  • 適用のタイミング: 伝統的な再温法が効果を示さないまたは不可能な場合に選択される。

移植後合併症

  • 定義: 心臓移植後に生じる様々な合併症。
  • ECMO適用の理由: 移植後の急性拒絶反応や心機能障害を管理し、移植心の回復を支援するため。
  • 特記事項: 移植後の患者管理は非常に複雑であり、ECMOは他の多くの治療法と併用される。

肺に関する適用条件

体外膜型人工肺(ECMO)は、肺の重度の障害または疾患に対しても使用され、呼吸機能のサポートを提供します。以下に、肺に関する適用条件とその詳細を示します。

COVID-19

  • 定義: 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症で、重度の肺炎を引き起こすことがある。
  • ECMO適用の理由: 重症患者における重度の呼吸不全に対して、従来の治療(酸素療法や人工呼吸器)では管理できない場合に使用する。

急性呼吸窮迫症候群(ARDS)

  • 定義: 重度の肺炎、外傷、または感染症などによって引き起こされる、重篤な呼吸障害。
  • ECMO適用の理由: ARDSによる極度の酸素交換障害に対して、肺を休息させると同時に効果的な酸素化を提供するため。

呼吸不全

  • 定義: 肺が十分に酸素を体内に取り込み、二酸化炭素を排出できない状態。
  • ECMO適用の理由: 重度の急性または慢性の呼吸不全に対して、肺を休息させながら効果的な酸素化を提供するため。

 ECMO(体外式膜型人工肺)のリスクと合併症

ECMO(体外膜型人工肺)は、生命を脅かす心肺の障害を持つ患者に一時的な生命支持を提供するための重要な治療法ですが、いくつかのリスクや合併症が伴います。以下に、主要なリスクと合併症について詳細を述べます。

出血

  • 原因: ECMO治療中は、患者が凝固防止のための薬剤(抗凝固剤)を投与されるため、出血リスクが高まります。
  • 予防と管理: 定期的な血液検査による凝固状態のモニタリング、出血箇所の特定と対処が重要です。

血栓塞栓症

  • 原因: 血液が人工回路内で凝固し、血栓が形成されることがあります。これらの血栓が脱落すると、塞栓症を引き起こす可能性があります。
  • 予防と管理: 抗凝固剤の適切な使用と、定期的な回路およびフィルターの監視が必要です。

凝固障害

  • 原因: ECMO中の抗凝固剤の使用は、患者の凝固系に影響を与え、凝固障害を引き起こすことがあります。
  • 予防と管理: 抗凝固剤の慎重な管理と、定期的な血液検査を通じた凝固プロファイルの監視が必要です。

感染症

  • 原因: ECMO回路やカニューレの挿入は、感染症のリスクを高めます。
  • 予防と管理: 厳格な無菌技術の使用、定期的な監視と、必要に応じた抗菌薬の使用が重要です。

四肢虚血

  • 原因: 特に静脈-動脈ECMO(VA-ECMO)では、血流が減少し四肢の血流が不足することがあります。
  • 予防と管理: 四肢の血流を定期的にモニタリングし、必要に応じて追加の手術的介入を行うことがあります。

脳卒中

  • 原因: 血栓が脳血管を塞ぐか、抗凝固剤による出血が脳卒中を引き起こすことがあります。
  • 予防と管理: 抗凝固療法の慎重な管理、血栓のモニタリング、そして早期発見と対応が重要です。

 ECMO(体外式膜型人工肺)治療中の患者のケア

ケア

ECMO治療を受けている患者のケアは、高度な専門知識と綿密な注意を必要とします。

  • 感染予防: カニューレ挿入部位の清潔を保ち、無菌操作を徹底します。
  • 抗凝固管理: ECMOサーキット内での血栓形成を防ぐために、適切な抗凝固療法が実施されます。
  • 栄養管理: 患者の栄養状態を維持し、必要に応じて経腸栄養または静脈栄養を提供します。
  • 身体機能の維持: 長期間の臥床による合併症を予防するため、定期的な身体療法が行われます。

治療期間と患者の状態のモニタリング

ECMO治療の期間は、患者の状態と回復の程度によって異なります。治療期間中、以下のような厳密なモニタリングが行われます。

  • 血液ガス分析: 酸素化と二酸化炭素除去の効率を評価します。
  • 血液凝固パラメータ: 抗凝固療法の効果を監視し、適切に調整します。
  • 生理学的モニタリング: 心拍数、血圧、呼吸数など、生命徴候の連続的な監視が行われます。
  • 臓器機能の評価: 腎機能、肝機能など、他の臓器機能の影響を評価します。

臨床応用の拡大

  • 非侵襲的モニタリング: 非侵襲的な血液ガスモニタリング技術の進歩により、患者の快適性が向上し、合併症のリスクが低減されることが期待されます。
  • 適用症の拡大: 従来の心肺機能障害に加え、敗血症や重症の肝不全など、新たな適用症への研究が進んでいます。
  • 再生医療との組み合わせ: ECMOを支持療法として使用しながら、損傷した心肺組織の再生を促進する治療法の開発が進められています。

入院~退院後の流れと、リハビリについて

心臓手術を受ける患者の入院から退院後に至るまでのプロセスと、心臓リハビリテーションについては以下のリンクをご参照ください。
入院中のケアから、退院後の生活への適応、そして心臓リハビリテーションを通じての健康回復と生活質の向上に至るまで、ご紹介しています。

よくある質問

こちらのコラムの内容の要点を「よくある質問」からまとめています。

ECMO(体外式膜型人工肺)とは何ですか?

ECMO(Extracorporeal Membrane Oxygenation)は、心臓や肺の機能が重度に障害された患者に一時的な補助を提供するために、患者の血液を体外に引き出し人工的に酸素を供給し二酸化炭素を除去した後、再び体内に戻す治療技術です。

ECMOの主要なタイプにはどのようなものがありますか?

ECMOには主に二つのタイプがあります。静脈-動脈ECMO(VA-ECMO)は心臓と肺の両方の機能を補助するために使用され、静脈-静脈ECMO(VV-ECMO)は主に肺機能のみを補助するために使用されます。

ECMO治療が適用される主な状態は何ですか?

ECMOは、心筋梗塞、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、心原性ショック、重度の呼吸不全、COVID-19による重度の肺炎など、重度の心肺障害を持つ患者に適用されます。

ECMO治療におけるリスクや合併症にはどのようなものがありますか?

ECMO治療には、出血、血栓塞栓症、凝固障害、感染症、四肢虚血、脳卒中などのリスクや合併症が伴います。これらは患者の凝固防止のための薬剤使用、ECMO回路内での血液の凝固、カニューレ挿入によるものなどが原因です。

ECMO治療中の患者ケアにはどのようなものがありますか?

ECMO治療中の患者ケアには、感染予防、抗凝固管理、栄養管理、身体機能の維持が含まれます。これらは患者の安定と回復を促進するために、厳格に実施される必要があります。

関連コラム

【参考文献】

【参考文献】

・一般社団法人 日本循環器学会
2023 年JCS/JSCVS/JCC/CVIT ガイドラインフォーカスアップデート版PCPS/ECMO/循環補助用心内留置型ポンプカテーテルの適応・操作
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2023/03/JCS2023_nishimura.pdf

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心筋症

心疾患情報執筆者

心疾患情報執筆者

竹口 昌志

看護師

プロフィール

看護師歴:11年
《主な業務歴》
・心臓血管センター業務
(循環器内科・心臓血管外科病棟)
・救命救急センター業務
(ER、血管造影室[心血管カテーテル、脳血管カテーテル]
内視鏡室、CT・MRI・TV室など)
・手術室業務
・新型コロナウイルス関連業務
(PCR検査センター、コロナ救急外来、HCU、コロナ病棟、
コロナ療養型ホテル、コールセンター)

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