株式会社増富

高度管理医療機器等販売業 許可番号 第100327号

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慢性腎臓病(CKD)と心血管疾患の関連

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慢性腎臓病(CKD)の概要

腎臓は体内の老廃物や過剰な水分を血液中で濾過し、体外に尿として排泄する生命維持に重要な臓器です。何らかの原因で腎臓の機能が低下すると、体内の老廃物や過剰な水分などの毒素の排泄が困難になり、放置すれば死に至ります。

慢性腎臓病(Chronic Kidney Disease:CKD)は、慢性的に経過する腎臓疾患の総称であり、心臓とCKDには密接な関係があります。CKDは、世界中で増加傾向にある主要な公衆衛生上の問題であり、心血管系疾患のリスクを著しく増加させます。CKDの定義と分類、CKDの進行段階について詳しく説明します。

慢性腎臓病(CKD)の定義と分類

慢性腎臓病(CKD)とは、腎臓の損傷や機能低下が3ヶ月以上持続し、健康に複数の影響を及ぼす状態を指します。CKDは、主に腎の濾過機能の低下の重症度によって分類されます。

慢性腎臓病(CKD)の進行段階

慢性腎臓病(CKD)は進行性の病態であり、病気の進行に伴って腎機能が徐々に低下します。この進行は、GFR(糸球体濾過率)に基づいて分類され、以下の段階に分けられます。

GFR ≥90 ml/min/1.73m² (ステージ1)

  • 腎機能は正常だが、他の腎疾患の証拠がある。

GFR 60-89 ml/min/1.73m² (ステージ2)

  • 軽度の腎機能低下。

GFR 30-59 ml/min/1.73m² (ステージ3)

中等度の腎機能低下。

GFR 15-29 ml/min/1.73m² (ステージ4)

  • 重度の腎機能低下。

GFR <15 ml/min/1.73m² (ステージ5)

  • 腎不全。

CKDの進行を遅らせるためには、原因となる疾患の管理、血圧の厳格なコントロール、適切な薬物療法、生活習慣の改善が重要です。

慢性腎臓病(CKD)における心血管疾患系のリスク

慢性腎臓病(CKD)と心血管疾患の関係、特に心血管疾患の発症率の増加に寄与するリスク要因に焦点を当てて詳細に説明します。

心臓と慢性腎臓病(CKD)の関連性

心腎症候群は、心臓と腎臓の障害が互いに影響を及ぼし合い、一方の器官の機能不全が他方の器官の病態を悪化させる状態を指します。この相互作用は、心不全が腎機能の低下を引き起こしたり、逆に腎機能の低下が心不全を悪化させたりすることで顕著になります。心臓と腎臓は、血圧の調節、体液のバランス、さまざまなホルモンの生成といった点で互いに密接に関連しています。このため、一方の器官に問題が生じると、他方にも影響を及ぼす可能性があります。

慢性腎臓病(CKD)と心血管疾患の発症率

CKD患者では、心血管疾患の発症率が一般人口に比べて顕著に高くなります。これは、CKDが心血管疾患の独立したリスク要因であることを示しています。腎機能の低下が進むにつれて、心血管イベントのリスクはさらに増加します。

リスク要因の同定

CKD患者における心血管疾患のリスク要因は多岐にわたります。これらのリスク要因を特定し、適切に管理することが、患者の生命予後を改善する鍵となります。主なリスク要因は以下の通りです:

高血圧
  • CKD患者では一般的で、心血管疾患の発症に寄与します。
糖尿病
  • CKDの重要な原因であり、同時に心血管リスクを高めます。
脂質異常症
  • CKD患者に頻繁に見られ、動脈硬化を促進します。
喫煙
  • 心血管疾患の独立したリスク要因であり、CKD患者においてもリスクを増加させます。
肥満
  • 心血管疾患のリスクを増加させ、CKDの進行を促進する可能性があります。
炎症
  • CKDに伴う慢性的な炎症は、心血管リスクを増大させます。
貧血
  • CKDに関連する貧血は、心臓に負担をかけ、心血管イベントのリスクを高めます。
骨代謝異常
  • カルシウム、リン、PTH(副甲状腺ホルモン)の異常は、血管の石灰化と心血管リスクの増加に関連します。

慢性腎臓病(CKD)進行に伴う心血管リスクの増加

CKDが進行するにつれて、心血管疾患のリスクは増加します。腎機能が低下すると、心血管疾患への多くのリスク要因が顕著になり、それらが相互に作用して、心血管イベントのリスクをさらに高めることが知られています。

病態生理学的メカニズム

CKD進行に伴う心血管リスクの増加には、以下のような病態生理学的メカニズムが関与しています。

内皮機能不全
  • CKDは内皮細胞の機能不全を引き起こし、動脈硬化の初期段階に寄与します。内皮機能の低下は、血管の拡張能の低下や炎症性サイトカインの増加につながります。
炎症
  • CKDに伴う慢性的な炎症は、心血管リスクを増加させます。炎症性マーカー(例:C反応性タンパク質)の上昇は、心血管イベントと密接に関連しています。
酸化ストレス
  • CKDによる酸化ストレスの増加は、血管損傷と動脈硬化の促進に寄与します。
脂質異常症
  • CKDは脂質代謝を変化させ、動脈硬化性脂質(例:高トリグリセライド血症、HDLコレステロールの低下)を引き起こします。
カルシウム・リン代謝の異常
  • CKDにおけるカルシウムとリンの代謝異常は、血管の石灰化に寄与し、心血管リスクを増加させます。
貧血
  • CKDによる貧血は、心臓への負荷を増加させ、心不全や虚血性心疾患のリスクを高めます。
  • 体液過剰: 腎機能低下による体液の過剰蓄積は、高血圧と心不全のリスクを増加させます。

慢性腎臓病(CKD)と心血管疾患の病態生理

慢性腎臓病(CKD)は、心血管疾患のリスクを著しく高めます。CKDの進行は、心血管系に多方面からの影響を及ぼし、高血圧の発生や心不全のリスク増加などを引き起こします。以下に、CKDによる心血管系への影響と、それに関連する病態生理学的メカニズムを詳細に解説します。

慢性腎臓病(CKD)による心血管系への影響

高血圧との関連性

慢性腎臓病(CKD)における高血圧は非常に一般的で、CKD患者の心血管リスク増加に大きく寄与します。高血圧とCKDの関連性には以下の病態生理学的メカニズムが関与しています。

ナトリウムと水分の保持
  • 腎機能の低下により、体内のナトリウムと水分が適切に排出されなくなります。これにより血液量が増加し、血圧が上昇します。
レニン-アンギオテンシン-アルドステロン系(RAAS)の活性化
  • CKDによる腎血流の低下はRAASを活性化させ、これがさらに血圧を上昇させる要因となります。
血管の硬化
  • CKDは、動脈硬化を促進し、血管の弾力性が低下します。これにより血圧が上昇し、心血管イベントのリスクが増加します。

高血圧の適切な管理は、CKD患者における心血管リスクを減少させる上で非常に重要です。

心不全の発症メカニズム

慢性腎臓病(CKD)は心不全の発症リスクを増加させる複数のメカニズムを介して心血管系に影響を及ぼします。

心筋肥大と心血管のリモデリング
  • 高血圧や貧血により、心臓はより多くの仕事を強いられます。これが心筋肥大や心臓の構造的変化を引き起こし、最終的に心不全へと進行します。
貧血
  • CKDはエリスロポエチンの産生低下を引き起こし、貧血を引き起こす可能性があります。貧血は心臓に過剰な負担をかけ、心不全のリスクを高めます。
流体過負荷
  • 腎機能の低下は体内の流体バランスを乱し、心臓への負担を増加させます。これは、心臓が血液を効率的にポンプできなくなる心不全を引き起こす可能性があります。

代謝異常と内分泌機能の影響

慢性腎臓病(CKD)は、代謝異常と内分泌機能の不全により、心血管系に複数の影響を及ぼします。CKDにおける代謝異常は、貧血と骨代謝異常を含み、これらが心血管系への影響を通じて患者の健康状態と生命予後に大きな影響を及ぼします。

貧血と心血管系への影響

CKDにおける貧血は、腎臓が十分な量のエリスロポエチンを生成できなくなることに起因します。エリスロポエチンは骨髄で赤血球の産生を刺激するホルモンで、その不足は赤血球数の減少を引き起こします。貧血による心血管系への影響は以下の通りです。

心拍出量の増加
  • 体は酸素輸送を増やすために、心拍数と心拍出量を増加させます。これにより、心臓への負担が増大し、長期的には心筋肥大や心不全のリスクが高まります。
虚血
  • 貧血は組織への酸素供給を低下させ、虚血を引き起こすことがあります。これは、心筋虚血や心疾患のリスクを増加させます。

CKD患者における貧血の管理には、エリスロポエチン補充療法や鉄補給が含まれますが、これらの治療は心血管系への影響を軽減するために慎重に行う必要があります。

骨代謝異常の心血管系への影響

CKDは、カルシウム、リン、ビタミンD代謝の異常を引き起こし、骨代謝異常の一因となります。これらの代謝異常は、心血管系にも複数の影響を及ぼします。

血管の石灰化
  • CKDによるカルシウムとリンの代謝異常は、血管の石灰化を促進します。血管の石灰化は、血管の硬化を進行させ、心血管疾患のリスクを高めます。
左室肥大
  • カルシウムとリンのバランスの乱れは、心臓への影響を及ぼし、左室肥大や心血管疾患のリスクを高める可能性があります。

慢性腎臓病(CKD)の治療と管理

CKD患者における心血管リスクの管理は、疾患の進行を遅らせ、生活の質を向上させるために不可欠です。心血管疾患のリスクを効果的に管理するための主要な戦略には、血圧管理と薬物療法が含まれます。

慢性腎臓病(CKD)における心血管リスクの管理

血圧管理戦略

CKD患者における心血管リスクを減少させるための最も重要な治療戦略の一つは、血圧管理です。適切な血圧管理戦略には以下が含まれます。

血圧目標の設定
  • CKD患者における血圧の目標は、一般的には130/80 mmHg未満とされています。しかし、個々の患者の状況に応じて、より厳格な血圧目標が設定されることもあります。
生活習慣の改善
  • 塩分摂取の制限、定期的な運動、体重管理、禁煙などの生活習慣の改善は、血圧管理において重要な役割を果たします。
薬物療法
  • 多くのCKD患者では、生活習慣の改善だけでは血圧を目標範囲内に管理することが困難です。そのため、ACE阻害薬、ARB、Ca拮抗薬、利尿薬など、一つまたは複数の薬物を組み合わせて使用することが一般的です。

薬物療法

慢性腎臓病(CKD)における心血管リスクを管理するための薬物療法には、血圧を下げるための薬剤以外にも以下のようなものがあります。

スタチン
  • 高コレステロール血症のCKD患者において、スタチンは動脈硬化性心血管疾患のリスクを減少させることが示されています。特に、中等度から高度のCKD患者においては、心血管疾患発症のリスクを低減するためにスタチンまたはエゼチミブの併用療法が推奨されます。
抗血小板薬
  • 心血管疾患の既往歴があるCKD患者には、二次予防として抗血小板薬(例えばアスピリン)の使用が考慮されることがあります。しかし、出血リスクを考慮して使用する必要があります。

進行性の慢性腎臓病(CKD)の管理

透析とは、機能低下した腎臓に代わって血液中の余分な水分や老廃物を人工的に取り除く治療法であり、血液透析と腹膜透析の2種類の透析療法があります。透析は腎機能が著しく低下した患者において、生命を維持するために不可欠ですが、心血管リスクにも影響を及ぼします。以下、透析と心血管リスクの関連について詳細に説明します。

透析と心血管リスク

透析治療を受けるCKD患者は、非透析患者に比べて心血管イベントのリスクが高いことが知られています。この増加したリスクには複数の要因が関与しています。

血液透析中の血圧変動
  • 血液透析は体から余分な水分と老廃物を除去しますが、治療中に急激な血圧の変動を引き起こすことがあります。これは、特に心臓が既に損傷している患者にとって、心血管疾患発症のリスクを増加させます。
血管アクセスの合併症
  • 血液透析には血管アクセスが必要ですが、これが血管炎や血栓形成を引き起こすことがあります。これらの合併症は、心血管系に追加の負担をかける可能性があります。
流体と電解質のバランスの変化
  • 透析は流体と電解質のバランスを急激に変化させることがあり、これが心臓に負担をかける可能性があります。特に、透析後の低血圧や高カリウム血症は、心臓のリズム障害を引き起こすリスクがあります。
炎症と動脈硬化
  • 透析患者は慢性的な炎症状態にあり、これが動脈硬化を促進することがあります。動脈硬化は心血管イベントのリスクを増加させます。

生活習慣の改善

慢性腎臓病(CKD)をはじめとする様々な疾患において、生活習慣の改善は病気の管理と進行の遅延に重要な役割を果たします。特に食事と運動は、CKD患者の健康維持と病気の進行抑制において、中心的な要素です。

食事

慢性腎臓病(CKD)患者における適切な食事管理は、病気の進行を遅らせ、心血管リスクを低減する上で非常に重要です。以下は、CKD患者向けの食事指針の要点です。

塩分摂取の制限
  • 高血圧と水分保持の管理に役立ちます。1日の塩分摂取量を制限することが推奨されます。
タンパク質の摂取管理
  • 過剰なタンパク質摂取は腎臓に負担をかけるため、医師や栄養士の指導のもとで適切な量を摂取することが重要です。
カリウムとリンの管理
  • 高カリウム血症や高リン血症は心血管系のリスクを増加させる可能性があるため、これらの摂取量も管理する必要があります。
水分摂取の管理
  • 過剰な水分摂取は体内の水分バランスを崩し、高血圧や心不全のリスクを増加させるため、適切な水分摂取量を守ることが重要です。

運動

定期的な運動は、CKD患者における全体的な健康状態の向上と心血管リスクの低減に寄与します。運動プログラムには以下のような点が推奨されます。

定期性
  • 週に数回、適度な強度の運動を行うことが理想的です。
種類
  • 有酸素運動(歩行、ジョギング、サイクリング、水泳など)が心血管系の健康に役立ちます。筋力トレーニングも筋力の維持と向上に有効です。
適度な強度
  • 運動は医師の指導のもと、個々の健康状態に合わせて行うことが重要です。

入院~退院後の流れと、リハビリについて

心臓手術を受ける患者の入院から退院後に至るまでのプロセスと、心臓リハビリテーションについては以下のリンクをご参照ください。
入院中のケアから、退院後の生活への適応、そして心臓リハビリテーションを通じての健康回復と生活質の向上に至るまで、ご紹介しています。

よくある質問

こちらのコラムの内容の要点を「よくある質問」からまとめています。

慢性腎臓病(CKD)とは何ですか?

CKDは、腎臓の損傷や機能低下が3ヶ月以上持続する状態であり、腎の濾過機能の低下によって分類されます。体内の老廃物や過剰な水分の排泄が困難になることで健康に多大な影響を及ぼします。

慢性腎臓病(CKD)と心血管疾患の関係は?

CKDは心血管疾患のリスクを顕著に増加させる独立したリスク要因です。腎機能の低下は、心血管イベントのリスクをさらに高め、心臓と腎臓の間の相互作用は心腎症候群を引き起こす可能性があります。

慢性腎臓病(CKD)患者の心血管疾患リスク要因は何ですか?

高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙、肥満などが主なリスク要因であり、これらはCKDの進行とともに心血管疾患の発症率を高めます。これらのリスク要因の管理が患者の生命予後を改善します。

慢性腎臓病(CKD)の治療と管理にはどのような方法がありますか?

血圧管理、薬物療法(ACE阻害薬、ARB、Ca拮抗薬など)、生活習慣の改善(塩分摂取の制限、運動、禁煙)がCKDの治療と管理には不可欠です。また、進行した場合には透析治療も選択肢になります。

慢性腎臓病(CKD)患者の生活習慣で注意すべき点は何ですか?

CKD患者は、食事(特に塩分の摂取量の制限)と運動に注意し、禁煙することが推奨されます。これらの生活習慣の改善は、病気の進行を遅らせ、心血管リスクを減少させる効果があります。

関連コラム

【参考文献】

一般社団法人日本腎臓学会
・日本腎臓学会発作成の診療ガイドライン
https://jsn.or.jp/medic/guideline/

厚生労働省
・慢性腎臓病(CKD)
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10901000-Kenkoukyoku-Soumuka/0000042647.pdf

【株式会社増富の関連コラム】
糖尿病と心血疾患

心疾患情報執筆者

心疾患情報執筆者

竹口 昌志

看護師

プロフィール

看護師歴:11年
《主な業務歴》
・心臓血管センター業務
(循環器内科・心臓血管外科病棟)
・救命救急センター業務
(ER、血管造影室[心血管カテーテル、脳血管カテーテル]
内視鏡室、CT・MRI・TV室など)
・手術室業務
・新型コロナウイルス関連業務
(PCR検査センター、コロナ救急外来、HCU、コロナ病棟、
コロナ療養型ホテル、コールセンター)

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