株式会社増富

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虚血性心疾患

僧帽弁狭窄症

心臓弁膜症

僧帽弁狭窄症の概要

私たちの心臓は、全身に血液を送り出すために休むことなく拍動しています。4つの部屋と4つの弁から構成される心臓は、まさに精密機械と呼ぶにふさわしい臓器です。

心臓の弁は、血液を一方通行に流し、逆流を防ぐという重要な役割を担っています。心臓の4つの弁の一つである「僧帽弁」は、左心房と左心室の間に位置し、血液が左心房から左心室へスムーズに流れるように調整しています。

僧帽弁狭窄症とは?

「僧帽弁狭窄症」とは、この僧帽弁の開きが悪くなる病気です。 正常な状態では、左心房から左心室へ血液を送る際に僧帽弁は大きく開きます。しかし、僧帽弁狭窄症では、弁が開きにくくなるため、左心房から左心室への血液の流れが阻害されてしまいます。
その結果、心臓はより多くの負担がかかり、息切れや動悸などの症状が現れます。 また、放置すると心不全などの深刻な合併症を引き起こす可能性もあります。

僧帽弁閉鎖不全症の原因には、加齢による弁の変性やリウマチ性心疾患、心筋梗塞後の損傷などが含まれます。症状としては、息切れ、疲れやすさ、胸の痛み、動悸などが挙げられます。これらの症状が見られる場合は、早期発見・治療が重要となるため、速やかに医療機関を受診しましょう。

僧帽弁の構造について

僧帽弁の構造は、主に以下の3つの部分から成り立っています。

1. 弁尖(べんせん)

僧帽弁は、前尖と後尖と呼ばれる2枚の弁尖(薄い膜状の組織)から構成されています。この2枚の弁尖が協調して動くことで、弁の開閉を行います。

  • 開いた状態: 左心房から左心室へ血液がスムーズに流れるように、2枚の弁尖が開きます。
  • 閉じた状態: 左心室が収縮する際、血液が左心房へ逆流するのを防ぐため、2枚の弁尖がしっかりと閉じます。

僧帽弁狭窄症では、弁尖が肥厚したり、硬くなって動きが悪くなることで、十分に開くことができなくなります。これが、左心房から左心室への血液の流れを阻害する要因となります。

2. 腱索(けんさく)

腱索は、弁尖の先端と左心室内の乳頭筋と呼ばれる筋肉をつないでいる、細く丈夫な繊維状の組織です。まるでパラシュートの紐のように、弁尖を支え、適切な位置に保つ役割を担っています。

  • 心臓が拡張する際には、腱索は緩んだ状態になり、弁尖が開いて血液が左心室へ流れ込みます。
  • 心臓が収縮する際には、腱索はピンと張って弁尖が裏返ったり、心房側へ過度に押し上げられるのを防ぎます。

この腱索の働きにより、弁尖は常に正しい位置で機能し、血液の逆流を防ぐことができます。

3. 弁輪(べんりん)

弁輪は、僧帽弁の土台となる線維性のリング状の組織で、弁尖と腱索を支えています。弁輪は心臓の動きに合わせて柔軟に変形し、弁尖の開閉をスムーズに行えるようにサポートしています。

  • 加齢や高血圧などの影響で、弁輪が拡張してしまうことがあります。
  • 弁輪が拡張すると、弁尖が完全に閉じなくなり、血液が逆流してしまう可能性があります。

僧帽弁狭窄症 発症の原因

僧帽弁狭窄症は、様々な要因によって引き起こされますが、原因のほとんどは小児期のリウマチ熱の後遺症です。

リウマチ熱による弁の損傷

かつては、リウマチ熱が僧帽弁狭窄症の主な原因となっていました。リウマチ熱は、溶連菌感染症(溶連菌による咽頭炎など)の後に発症する可能性のある病気です。

  • リウマチ熱では、免疫システムが自身の体の組織を攻撃してしまう自己免疫反応が起こり、心臓を含む様々な臓器に炎症を引き起こします。
  • 特に、心臓の弁膜組織はリウマチ熱による炎症の影響を受けやすく、弁尖が肥厚したり、癒着を起こしたりすることがあります。
  • このような弁の損傷が、僧帽弁狭窄症を引き起こす原因となります。

その他の要因

リウマチ熱以外にも、僧帽弁狭窄症を引き起こす可能性のある要因はいくつか存在します。

先天性心疾患

生まれつき心臓に異常がある場合、僧帽弁が正常に形成されず、狭窄を起こしていることがあります。

加齢による変化

加齢に伴い、弁尖が厚く硬くなる、あるいはカルシウムが沈着するなど、弁の構造が変化することがあります。

感染性心内膜炎

細菌や真菌などの感染によって、心臓の内膜(心内膜)に炎症が起こることがあります。この炎症が僧帽弁にまで及ぶと、弁の損傷や狭窄を引き起こす可能性があります。

カルシウムの沈着

加齢やその他の要因によって、弁輪にカルシウムが沈着し、弁の動きが阻害されることがあります。

腫瘍

心臓やその周辺組織に腫瘍ができることで、僧帽弁が圧迫され、狭窄を起こすことがあります。

ただし、これらの要因によって僧帽弁狭窄症が引き起こされることは、リウマチ熱に比べて稀です。

僧帽弁狭窄症の症状

僧帽弁狭窄症は、初期段階では自覚症状に乏しいことが多く、健康診断などで心雑音を指摘されて初めて気づくというケースも少なくありません。しかし、病状が進行すると、日常生活に支障をきたすような様々な症状が現れてきます。

主な症状

僧帽弁狭窄症によって引き起こされる症状は、主に左心房への負担増加と、全身への血液供給不足によって現れます。

労作時の呼吸困難

特に運動時など、心臓に負担がかかった際に息切れを感じやすくなります。これは、狭窄した僧帽弁を通過して左心室へ送られる血液量が不足し、十分な酸素を全身に送り届けることができなくなるために起こります。

疲労感

軽度の運動でも疲れを感じやすくなったり、常にだるさや倦怠感を覚えることがあります。

動悸

心臓がドキドキしたり、脈が速く感じられることがあります。これは、左心房が拡張し、心房内の圧力が高くなることで起こる心房細動という不整脈が原因となることが多いです。

手足のむくみ

特に夕方になると、足首や足の甲がむくむことがあります。これは、心臓のポンプ機能が低下することで、体内の水分がうまく排出されずに溜まってしまうために起こります。

特に横になった時などに咳が出やすくなることがあります。これは、左心房の圧力上昇によって肺に水が溜まる(肺うっ血)ことが原因となることがあります。

重症化した場合の症状

僧帽弁狭窄症を放置して重症化すると、心不全のリスクが高まり、生命を脅かす可能性も出てきます。

心房細動

心房細動は、心臓の上側の部屋である心房がけいれんしたように小刻みに震え、正常に収縮しなくなる不整脈です。僧帽弁狭窄症では、左心房が拡張し、心房内の血液が滞りやすくなるため、心房細動が起こりやすくなります。心房細動は、動悸や息切れなどの症状を引き起こすだけでなく、心臓内に血栓(血の塊)を形成しやすくなるため注意が必要です。

血栓塞栓症(血の塊)

心房細動によって心臓内にできた血栓が血流に乗って脳に詰まると、脳梗塞を引き起こします。脳梗塞は、言語障害や運動麻痺、意識障害など、重篤な後遺症を残す可能性のある恐ろしい病気です。

肺高血圧症(脳梗塞)

僧帽弁狭窄症が進行すると、肺の血管の圧力が高くなる肺高血圧症を合併することがあります。肺高血圧症になると、呼吸困難などの症状が悪化するだけでなく、心臓にも大きな負担がかかり、心不全のリスクが高まります。

僧帽弁狭窄症の症状は、日常生活の中で漠然と感じるものが多いため、自覚症状が少ないことがります。しかし、これらの症状が進行すると、心臓への負担が増大し重篤な健康問題へとつながる可能性があります。

僧帽弁狭窄症の診断

僧帽弁狭窄症の診断には、聴診による心雑音の確認に加え、様々な検査を組み合わせていきます。ここでは、代表的な検査方法とその役割について詳しく解説していきます。

聴診

聴診器を用いて医師が患者の胸の音を直接聴くことで、心臓の状態を把握します。僧帽弁狭窄症の場合、心臓の拍動音とは別に、以下のような特徴的な音が聴取されることがあります。

心尖部拡張期ランブル音

心臓が拡張する時(心拡張期)に、左心室の先端付近(心尖部)で聴こえる低くゴロゴロとした雑音です。これは、狭窄した僧帽弁を血液が通過する際に生じる乱流によって発生します。

前心尖部収縮期雑音

心臓が収縮する時(心収縮期)に、心尖部の少し上の方(前心尖部)で聴こえる、高めの雑音です。

心電図検査

心臓の電気的な活動を波形として記録することで、心臓のリズムや構造の異常を調べます。
僧帽弁狭窄症では、左心房に負担がかかり肥大するため、心電図に特徴的な変化が現れることがあります。

P波の増高

心房の興奮を表すP波と呼ばれる部分が、高くなることがあります。

胸部X線検査

胸部をX線撮影することで、心臓や肺の大きさ、形、位置などを確認します。僧帽弁狭窄症では、左心房や肺動脈の拡大などが認められることがあります。

心エコー検査

超音波を心臓に当て、その反射波を画像化することで、心臓の構造や動きをリアルタイムに観察できます。僧帽弁狭窄症の診断において最も重要な検査であり、以下の項目を評価します。

弁の形態

弁尖の肥厚や癒着の程度、開口面積などを確認します。

血流

カラードプラ法を用いることで、血流の速度や方向を視覚化し、狭窄の程度を評価します。

心臓の動き

左心房や左心室の大きさ、壁の厚さ、動きなどを観察し、心臓への負担を評価します。

血液検査

血液検査は、採血を行い血液中の血球成分を測定する検査です。心室に負担があると分泌されるBNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)というホルモンは心不全(心機能の低下)の病態を知るのに有用です。BNPの血中濃度を測定し、心機能低下の程度を把握します。

心カテーテル検査

心臓内に細い管(カテーテル)を挿入し、心臓内の圧力や血流を直接測定する検査です。僧帽弁狭窄症では、以下の目的で行われることがあります。

弁口面積の正確な測定

カテーテルの先端から造影剤を注入し、心臓の動きをX線で撮影することで、僧帽弁の開口面積を正確に測定します。

肺動脈圧の測定

肺動脈にカテーテルを進め、肺高血圧症の有無や程度を評価します。

心臓MRI検査

強力な磁場と電波を用いて、心臓の断層画像を撮影する検査です。心エコー検査よりもさらに詳細な心臓の構造や機能を評価することができます。僧帽弁狭窄症では、以下の目的で行われることがあります。

弁の形態評価:

心エコー検査では描出が難しい弁の微細な構造変化を、より詳細に評価できます。

血流評価

心エコー検査と同様に、血流の速度や方向を視覚化し、狭窄の程度を評価します。

心臓MRI検査は、他の検査では診断が難しい場合や、より詳細な情報が必要な場合に選択されることがあります。

僧帽弁狭窄症の保存的治療

経過観察

初期の僧帽弁狭窄症で、自覚症状がなく、心臓への負担も少ない場合には、定期的な検査で経過観察を行うことがあります。

具体的な検査内容

心電図検査、胸部X線検査、心エコー検査などを定期的に実施し、心臓の状態や弁の狭窄の程度をモニターし、病状の変化を早期に発見します。

受診頻度

症状や病状の進行具合によって異なりますが、通常は数ヶ月に一度程度の受診が必要です。

薬物療法

症状の出現や病状の進行を抑え、心臓の負担を軽減するために、様々な薬物が用いられます。

利尿剤

体内の余分な水分を排出し、心臓への負担を軽減します。息切れやむくみの改善効果が期待できます。

心臓の収縮力を高める薬(強心剤)

心臓のポンプ機能を改善し、全身への血液循環を促します。

不整脈の薬

心房細動などの不整脈を抑制し、心臓のリズムを整えます。血栓の発生リスクを抑える効果も期待できます。

血栓を予防する薬(抗凝固薬)

心房細動などによって心臓内に血栓ができるのを防ぎ、脳梗塞などのリスクを低減します。

生活習慣の改善

心臓への負担を軽減し、病状の進行を遅らせるためには、生活習慣の改善が非常に重要です。

禁煙

喫煙は血管を収縮させ、血圧や脈拍を上昇させるため、心臓に大きな負担をかけます。僧帽弁狭窄症の患者さんは、必ず禁煙する必要があります。

食生活の改善

塩分を控えて、バランスの取れた食事を心がけましょう。特に、減塩は高血圧の予防にもつながり、心臓への負担を軽減する上で重要です。

適度な運動

心臓に負担をかけない程度の軽い運動を、継続して行うようにしましょう。運動の種類や強度は、医師に相談して決めるようにしてください。

体重管理

肥満は心臓に負担をかけるため、適切な体重を維持することが大切です。

十分な睡眠

睡眠不足は心臓に負担をかけるため、質の高い睡眠を十分に取るように心がけましょう。

ストレスの軽減

ストレスは心臓に悪影響を与えるため、できるだけストレスを溜め込まないように、適切な方法でストレスを解消しましょう。

規則正しい生活

規則正しい生活を送ることで、体内時計を整え、心臓への負担を軽減することができます。

リウマチ熱の予防

リウマチ熱が僧帽弁狭窄症の原因の場合、再発予防目的で抗菌薬を用いた治療が推奨されることがあります。

僧帽弁狭窄症の対症療法

僧帽弁狭窄症の対症療法は、病気の根本的な原因を治療するのではなく、患者の症状を緩和し、生活の質を改善することを目的としています。

呼吸困難の管理

僧帽弁狭窄症では、進行すると安静時にも息苦しさを感じるようになります。 呼吸困難に対しては、以下の様な方法で対応します。

酸素療法

鼻からチューブで酸素を供給することで、血液中の酸素濃度を高め、息切れを和らげます。

呼吸リハビリテーション

専門の理学療法士の指導のもと、呼吸法や運動療法を行い、呼吸機能の改善を目指します。

体位変換

横になるよりも、体を起こした姿勢や、枕などで上半身を高くすることで、呼吸が楽になることがあります。

心不全の管理

僧帽弁狭窄症が進行すると、心臓は血液を送り出すためにより多くの負担がかかり、心不全を引き起こすことがあります。心不全の管理には、以下の様な方法があります。

薬物療法

利尿剤

体内の余分な水分を排出し、心臓への負担を軽減します。

強心剤

心臓の収縮力を高め、全身への血液循環を改善します。

血管拡張薬

血管を広げて血圧を下げ、心臓の負担を軽減します。

食事療法

塩分を控え、カリウムを多く含む食品を積極的に摂るように心がけます。

運動療法

医師の指導のもと、無理のない範囲で運動を行い、体力維持に努めます。

不整脈の管理

僧帽弁狭窄症では、心房細動という不整脈が起こりやすくなります。心房細動は、動悸や息切れなどの症状を引き起こすだけでなく、心臓内に血栓(血の塊)ができやすくなるため、注意が必要です。不整脈の管理には、以下の様な方法があります。

薬物療法

抗不整脈薬

心臓のリズムを整え、心房細動の発症を抑えます。

抗凝固薬

血液をサラサラにすることで、血栓ができるのを防ぎます。

カテーテルアブレーション

カテーテルと呼ばれる細い管を心臓まで挿入し、心房細動の原因となっている部位に高周波電流を流して焼灼することで、不整脈を治療する方法です。

これらの対症療法は患者の生活の質を改善し、症状を軽減することで日常生活を送ることを可能にします。しかし、僧帽弁狭窄症の根本的な問題はこれらの治療では改善できないため、症状が進行した場合や生活の質が大幅に低下した場合には、僧帽弁の形成術や弁置換術のような積極的な外科的治療が必要となることがあります。

僧帽弁狭窄症の外科的治療法(手術について)

保存的治療や対症療法は、あくまで僧帽弁狭窄症の進行を抑え、症状を和らげることを目的としており、根本的な解決にはなりません。僧帽弁狭窄症が進行し、症状が重い場合や、命に関わるリスクが高いと判断された場合には、外科的治療、すなわち手術が必要となります。

僧帽弁狭窄症に対する手術には、大きく分けて「僧帽弁形成術」と「僧帽弁置換術」の二つがあります。

僧帽弁形成術

僧帽弁形成術は、できるだけ患者さん自身の僧帽弁を残して機能を回復させる手術です。具体的には、肥厚したり硬くなった弁尖を切除したり、弁輪を縮小したり、腱索を修復したりするなど、様々な方法を組み合わせて行います。

メリット

自己弁を温存できる

生まれ持った自身の弁を使うため、人工弁に比べて拒絶反応や感染症のリスクが低く、より自然な心臓の動きを取り戻せる可能性があります。

抗凝固療法が不要な場合が多い

血栓ができにくいため、生涯にわたり血液をサラサラにする薬(抗凝固薬)を飲み続ける必要がないケースが多いです。

デメリット

技術的に難しい

心臓の構造や弁の状態に合わせて、複雑な操作が必要となるため、高度な技術と経験を要します。

再手術の可能性

形成術後、再び弁が狭窄したり、逆流が生じたりする可能性があり、再手術が必要になる場合があります。

手技手順

具体的な手術方法は症例によって異なりますが、一般的な僧帽弁形成術は、以下のような手順で行われます。

①開胸

全身麻酔下にて、執刀医のDrが開胸を行います。皮膚→胸骨→心膜の順に切開し心臓を露出させます。

②体外循環開始

手術中の心臓と肺の役割を人工心肺という外部の装置に任せ、全身の血流を確保します。心筋保護液という薬剤を心臓に流し、一時的に心臓の動きを停止させます。

④心臓機能の回復

切り開いた大動脈・心臓を縫合し閉じていきます。心臓の再拍動の為のHot shot(温めた血液と心筋保護液の混合液)を流し、心臓を再拍動させて人工心肺を停止します。心臓の動きが自然に回復することを確認し、止血を行いながら閉胸していきます。

⑤閉胸

患者様の全身状態に注意しながら心膜→胸骨→皮膚の順に閉じて手術終了です。

⑤閉胸

患者様の全身状態に注意しながら閉胸し、手術終了です。

僧帽弁置換術

僧帽弁置換術は、損傷が激しい僧帽弁を人工弁と交換する手術です。

メリット

弁機能の確実な回復

人工弁に置き換えることで、弁の機能を確実に回復させることができます。

再手術のリスクが低い

人工弁は耐久性が高いため、再手術が必要となる可能性が低いです。

デメリット

人工弁による合併症のリスク

人工弁を使用するため、血栓症や弁の機能不全、感染性心内膜炎などのリスクがあります。

抗凝固療法が必要

機械弁の場合、血栓を防ぐために、生涯にわたり抗凝固薬を服用する必要があります。

人工弁の種類

機械弁

主に炭素や金属などの人工素材で作られています。
耐久性に優れ、半永久的に使用できることが利点です。
一方で、血栓ができやすいという欠点があり、生涯にわたる抗凝固薬の服用が必要です。

生体弁

ウシやブタの心臓弁や心膜など、動物の組織から作られています。
血栓ができにくいため、抗凝固薬の服用期間が短くて済む場合が多いです。
ただし、機械弁に比べて耐久性が劣り、将来的に再手術が必要となる可能性があります。

 手技手順

 具体的な手術方法は症例によって異なりますが、一般的な僧帽弁置換術は、以下のような手順で行われます。

①開胸

全身麻酔下にて、執刀医のDrが開胸を行います。皮膚→胸骨→心膜の順に切開し心臓を露出させます。

②体外循環開始

手術中の心臓と肺の役割を人工心肺という外部の装置に任せ、全身の血流を確保します。心筋保護液という薬剤を心臓に流し、一時的に心臓の動きを停止させます。

③僧帽弁の置換

大動脈を切り開き、心臓側にある元の僧帽弁を取り除き、人工弁と入れ替えます。

④心臓機能の回復

切り開いた大動脈・心臓を縫合し閉じていきます。心臓の再拍動の為のHot shot(温めた血液と心筋保護液の混合液)を流し、心臓を再拍動させて人工心肺を停止します。心臓の動きが自然に回復することを確認し、止血を行いながら閉胸していきます。

⑤閉胸

患者様の全身状態に注意しながら心膜→胸骨→皮膚の順に閉じて手術終了です。

僧帽弁形成術と僧帽弁置換術の比較まとめ表

項目僧帽弁形成術僧帽弁置換術
手術内容患者さん自身の僧帽弁を修復する損傷した僧帽弁を人工弁と交換する
メリット* 自己弁を温存できる
* より自然な血流を維持できる
* 抗凝固療法が不要な場合が多い
* 弁機能の確実な回復
* 再手術のリスクが低い
デメリット* 技術的に難しい
* 再手術の可能性がある
* 人工弁による合併症のリスク
* 抗凝固療法が必要な場合が多い
* 機械弁の場合、弁の音が聞こえることがある
適応* 弁の損傷が比較的軽度
* 若年者
* 抗凝固療法が困難な場合
* 弁の損傷が高度
* 高齢者
* 再手術のリスクが高い場合
入院期間2~4週間程度2~4週間程度
回復期間個人差がありますが、数ヶ月程度個人差がありますが、数ヶ月程度

僧帽弁狭窄症手術の危険性は?

リスクに影響する要因

年齢

一般的に、高齢になるほど手術のリスクは高くなります。

全身状態

糖尿病、高血圧、呼吸器疾患、腎臓病などの基礎疾患がある場合、手術のリスクが高くなることがあります。

心臓の機能

手術前に心臓の機能が低下している場合は、手術のリスクが高くなります。

手術の内容

僧帽弁形成術と僧帽弁置換術では、手術の内容や難易度が異なるため、リスクも異なります。

想定される合併症

心臓弁膜症手術に伴う主な合併症としては、以下のようなものが挙げられます。

術後出血

手術操作により、出血が長引いたり、再出血を起こすことがあります。

心不全

手術の侵襲や不整脈などにより、心臓のポンプ機能が低下し、心不全を起こすことがあります。

不整脈

手術による心臓への刺激や、術後の炎症などにより、不整脈が生じることがあります。

呼吸障害

手術後、一時的に肺の機能が低下し、呼吸困難になることがあります。

脳梗塞

手術中に血栓ができて脳の血管に詰まり、脳梗塞を起こすことがあります。

創部感染

手術の傷から細菌が入り込み、感染症を起こすことがあります。

人工弁に関連する合併症(弁置換術の場合)

血栓症、弁の機能不全、感染性心内膜炎などが起こる可能性があります。

入院~退院後の流れと、リハビリについて

心臓手術を受ける患者の入院から退院後に至るまでのプロセスと、心臓リハビリテーションについては以下のリンクをご参照ください。
入院中のケアから、退院後の生活への適応、そして心臓リハビリテーションを通じての健康回復と生活質の向上に至るまで、ご紹介しています。

よくある質問

こちらのコラムの内容の要点を「よくある質問」からまとめています。

僧帽弁狭窄症の原因は何ですか?

小児期のリウマチ熱、生まれつきの心臓欠陥、加齢による動脈硬化、感染性心内膜炎、僧帽弁輪の石灰化などがあります。

僧帽弁狭窄症の症状は何ですか?

呼吸困難、疲労感、心房細動、手足のむくみなどがあります。

僧帽弁狭窄症の治療方法は?

薬物療法、生活習慣の改善、リウマチ熱の予防、保存的治療、僧帽弁形成術、僧帽弁置換術などがあります。

僧帽弁形成術と僧帽弁置換術の違いは何ですか?

僧帽弁形成術は僧帽弁を修復する手術で、僧帽弁置換術は僧帽弁を人工弁に置き換える手術です。 一般的に僧帽弁形成術の方が僧帽弁置換術より生存率、心臓機能の回復度、合併症や感染症の回避などあらゆる面で優れています。

僧帽弁狭窄症の手術の危険性は?

出血、心不全、不整脈、呼吸障害、脳梗塞、創感染などがあります。心臓弁膜症の合併症としては、術後の出血、心不全、不整脈、呼吸障害、脳梗塞、創感染があります。危険率に関しては手術死亡率約4%との報告があります。

関連コラム

【参考文献】

・一般社団法人 日本循環器学会
https://www.j-circ.or.jp/sikkanpg/case/case6/about5.htm#6-5-2

・弁膜症治療のガイドライン
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2020/04/JCS2020_Izumi_Eishi.pdf

心疾患情報執筆者

心疾患情報執筆者

竹口 昌志

看護師

プロフィール

看護師歴:11年
《主な業務歴》
・心臓血管センター業務(循環器内科・心臓血管外科病棟)
・救命救急センター業務(ER、血管造影室(心血管カテーテル、脳血管カテーテル)
 内視鏡室、CT・MRI・TV室など)
・手術室業務
・新型コロナウイルス関連業務
(PCR検査センター、コロナ救急外来、HCU、コロナ病棟、コロナ療養型ホテル、コールセンター)