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虚血性心疾患

心筋梗塞

虚血性心疾患

心筋梗塞の概要

心筋梗塞は、心筋(心臓の筋肉)に酸素や栄養を供給している血管(冠動脈)への血流が遮断されることで、その部分の心筋が壊死(死滅)する疾患を指します。心筋梗塞には、発症後経過した時間によって、「急性心筋梗塞、亜急性心筋梗塞、陳旧性心筋梗塞」があります。また、主な原因は動脈硬化で冠動脈に形成された血栓やプラークなどです。心筋梗塞は、「心原生ショック、不整脈、心不全」などの生命にかかわる重篤な合併症を引き起こす可能性がありますが、早期診断と適切な治療によって生命の危機を回避し重篤な合併症を予防することができます。

心筋梗塞と冠動脈について

心筋梗塞が狭心症と異なる所は、血管が閉塞することによって、心臓そのものに血液が流れなくなり、時間とともに心筋が壊死してゆく不可逆的かつ重篤な疾患であることです。冠動脈は、心筋に栄養と酸素を供給するための血液を運ぶ主要な動脈であり、心筋は多量の酸素と栄養を必要とするため、冠動脈の役割は非常に重要です。冠動脈は心臓の表面に存在し、大きく分けて、右冠動脈(RCA)、左冠動脈の左前下行枝(LAD)と左回旋枝(LCX)の3本の枝に分かれ、心筋に酸素と血液を供給しています。心筋への血液が滞り酸素や栄養の供給が不足すると、心筋梗塞を引き起こすリスクが高まります。心筋梗塞には、発症後経過した時間によって以下3種類があります。

急性心筋梗塞(AMI)

急性心筋梗塞は、冠動脈が閉塞し心筋壊死後に心筋梗塞を発症してから「72時間以内」の疾患です。さらに急性心筋梗塞は臨床現場において、心電図でST上昇を伴う「ST上昇型心筋梗塞(STEMI)」と、ST上昇を伴わない「非ST上昇型心筋梗塞(NSTEMI)」に分類されます。

・ST上昇型心筋梗塞(STEMI)

STEMIとは、心電図でST上昇を伴う心筋梗塞であり、貫壁性心筋梗塞ともいわれる。閉塞した血管を開通しなければ、不可逆的な心筋壊死に陥ることになるので緊急での治療を要する状態です。

・非ST上昇型心筋梗塞(NSTEMI)

NSTEMIとは、心電図でST上昇を伴わない心筋梗塞であり、心内膜下心筋梗塞ともいわれる。、STEMI程の緊急を 要しませんが、こちらも血管の開通の治療が必要な状態です。

亜急性心筋梗塞(RMI)

亜急性心筋梗塞は、冠動脈が閉塞し心筋壊死後に心筋梗塞を発症してから「72時間~1ヶ月以内」経過した疾患です。

陳旧性心筋梗塞」(OMI)

陳旧性心筋梗塞は、冠動脈が閉塞し心筋壊死後に心筋梗塞を発症してから「30日以上」経過した疾患です。

心筋梗塞 発症の原因

心筋梗塞は、心筋に酸素や栄養を供給している冠動脈への血流が遮断されることで、心筋の壊死が起こります。以下は心筋梗塞の主な原因です。

動脈硬化

心筋梗塞の原因の大部分は、動脈硬化です。これは冠動脈の内壁に脂質やコレステロールが蓄積することで、プラークという硬い堆積物が形成される状態を指します。脂質の蓄積は、高脂血症、高血圧、糖尿病、喫煙などのリスク要因に起因することが多く、このプラークの成長や変化により冠動脈の狭窄や血流の障害を引き起こす可能性があります。

血栓形成

プラークが破裂や亀裂を起こすと、その部分が血液と直接接触します。これにより、血液の凝固作用が活性化し、血栓が形成される可能性が高まります。この血栓が動脈を部分的または完全に閉塞すると、その背後の心筋への血流が遮断され、心筋梗塞が発症します。

冠動脈の痙攣

一部の心筋梗塞は、冠動脈の痙攣によって引き起こされることもあります。この痙攣は、冠動脈の筋肉が突然収縮し、血流が一時的に遮断される状態を指します。痙攣の原因は、特定の薬物、ストレス、一部の病状などが考えられます。

その他の原因

薬物使用(特定のコカインなど)、高度なストレスや急激な低体温、急性の炎症反応なども、まれに心筋梗塞の原因となることがあります。

心筋梗塞の症状

心筋梗塞の症状は、冠動脈のどの部分が閉塞しているか、どれだけの範囲の心筋が影響を受けているかによって症状が異なります。また、女性、高齢者、糖尿病患者などでは自覚症状が乏しいことがあり、症状には個人差があります。以下は心筋梗塞の主な症状です。

胸痛

胸痛は最も典型的な症状であり、胸の中央または左側に強い圧迫感や痛みを感じることがあります。狭心症とは違って、症状が一時的(数分から15分程度)ではなく30分以上続き、ニトログリセリンなどの硝酸薬も効果を示さないので恐怖感や不安感を伴うことがあります。

放散痛

放散痛の痛みは、腕、顎、肩、背中、さらには歯や喉に放散することがあります。放散痛は、主に体の上半身に症状が起こり、体の左側に多いのが特徴であり、心臓からの刺激が脊髄に伝わる際の神経伝達時に起こると考えられています。

動悸

心筋梗塞に伴い、自分の心臓の拍動を感じるようになることがあります。梗塞の部位や程度によっては、不整脈により意識を失ったり、生命にかかわることがあります。

吐き気、胃の不快感

 胸痛だけでなく、胃の痛みや不快感、吐き気や嘔吐の症状で現れることもあります。

呼吸困難

心臓に負担がかかり心機能が低下した場合に胸痛なしで息苦しさが現れることがあります。さらに呼吸困難症状が悪化すると顔色が悪くなり、命にかかわることもあります。

発汗、めまい

激しい痛みや苦しさにより、冷や汗やめまいが現れることがあります。

心筋梗塞の診断

心筋梗塞は、冠動脈の閉塞により心筋の一部が酸素供給を受けられなくなり、その結果として壊死する状態を指します。以下は心筋梗塞の検査と診断方法です。

心電図検査

心電図は、心臓の電気的な活動を記録する検査です。心筋梗塞は、心電図上で典型的なST変化などの波形 の変化が見られます。心電図波形を基に血管の詰まった箇所や範囲が推定できるので確定診断にも有用です。

胸部X線検査

胸部X線検査は、心臓や肺の画像を提供する検査です。心筋梗塞の合併症による肺のうっ血や心臓の拡大などの心不全像の所見を確認することができます。

血液検査

血液検査は、採血を行い血液中の血球成分を測定する検査です。心筋梗塞により心筋が壊死すると、心臓  マーカーの1つである「トロポニンやCPK、CK-MB」などの特定の酵素やタンパク質が血液中に放出されます。その濃度を測定することで、心筋梗塞の有無や重症度を評価することができます。

心エコー検査

心エコー検査は、心臓の詳細な画像を提供する非侵襲的な検査です。心臓の超音波画像をとることで、心筋の動きや機能、心筋梗塞などで壊死した部位の評価を行うことができます。

冠動脈造影検査

冠動脈造影(CAG)は冠動脈の狭窄や閉塞の場所と程度を評価するための画像診断方法です。造影剤を冠動脈 に注入し、X線を使用することで血管の内腔を描出する事ができます。心筋梗塞の場合、緊急検査を行い確定診断後に適切な治療が行われます。

心筋シンチグラフィ検査

心筋シンチグラフィーは、放射性物質(ラジオアイソトープ)を使用して心筋の血流や活動を評価する検査 です。心筋へ流れる血液の量や心筋の機能を画像化し心筋虚血の有無を評価することができます。

心臓MRI検査

心臓MRIは、より詳細な心臓の画像を提供する検査で心筋梗塞による心筋の損傷範囲や梗塞の程度を評価することができます。

心筋梗塞の治療法

保存的治療、対症療法

心筋梗塞は生命にかかわる重篤な状態であり、発症後は、できる限り早く確実に治療を開始することが救命や合併症予防につながります。心筋梗塞の治療は、原因となる血管の閉塞部位の再開通や梗塞拡大防止、再梗塞防止、合併症予防などがあげられます。心筋梗塞の対症療法は、症状の発現を軽減または解消し根治に繋げるための治療方法を指します。以下は心筋梗塞の主な対症療法の詳細です。

薬物療法

・胸痛

ニトログリセリンなどの硝酸製剤は、心筋の酸素供給を増加させるために冠動脈を拡張させる効果があり、それによって胸痛を和らげることができます。また、重度の胸痛がある場合、鎮痛薬のモルヒネを使用して痛みを緩和することがあります。β遮断薬は、心拍数と血圧を減少させることで、心筋の酸素需要を減少させる効果があります。これにより、胸痛の緩和や梗塞の範囲拡大を防ぐことが期待されます。

・心不全の管理

心筋梗塞後に合併症である心不全の徴候が見られる場合、利尿薬が投与されることがあります。これにより、体内の過剰な液体を排出し、肺や他の臓器における水分貯留を減少させることができます。心筋梗塞後に左室の機能が低下している場合に、正常な心筋が大きくなり心臓の機能を低下させてしまう「心筋リモデリング」の予防目的でACE阻害薬が使用されることがあります。

・不整脈の管理

梗塞の部位によっては、徐脈性不整脈や頻脈性不整脈が出現します。その場合、硫酸アトロピンや抗不整脈薬の使用が必要となることがあります。また、心室細動や心室頻拍などの重症致死性不整脈出現の際は、電気的除細動が必要となることがあり、迅速に対応しなければ心停止を引き起こす恐れもあります。

・心原性ショック

心筋梗塞の広がりが著しく、左室心筋の40~50%以上が壊死を起こすと心原性ショックを呈します。心原性ショックから心停止となった場合には、強心薬を用いて人工呼吸や心臓マッサージなどの救命処置を行う必要があります。

・経皮的冠動脈形成術(PCI)

経皮的冠動脈形成術(PCI)でステント留置をする場合にDAPT(抗血小板薬2剤併用療法)を行うことで、ステント内血栓症を予防します。初回投与時にローディング(急速飽和)することが必要であり、緊急でのPCIの場合は、抗血小板薬の効果を待ってのPCIは不可能となります。そのため、初回投与時に通常の2~5倍の用量を投与することにより、早期に効果を発揮させる使用方法が認められています。また、ヘパリンや低分子量ヘパリンなど新たな血栓の形成を防ぐために抗凝固薬を使用することもあります。

呼吸困難の管理

呼吸困難の症状軽減と心筋虚血障害の軽減を図るために酸素療法を行います。

重篤な合併症

心筋梗塞の重篤な合併症(心原性ショック、不整脈、心不全)を併発している場合や心停止後には、救命のために一時的に心臓の機能を補助するために経皮的機械的循環補助:(IABP、ECMO)を使用することがあります。

心筋梗塞の場合、症状の進行により梗塞範囲が広がり、生命に関わる重篤な状態となるので、内科的治療の冠動脈形成術(PCI)や、重症度によっては冠動脈バイパス手術(CABG)のような外科的治療が必要となります。

心筋梗塞の外科的治療(心筋梗塞)

 心筋梗塞の治療は大きく分けてカテーテル治療とバイパス手術がありますが、緊急性の高いものについては、基本的に素早く行うことができるPCI(カテーテル治療)が基本になります。

 ただし、心筋梗塞の病変部の血管がとりわけ急所の部分の左前下行枝(LAD)の分岐部だった場合や、病変部が複数箇所ある場合などではカテーテル治療では予後が悪い(再発や生存できる期間が短いとか追加治療が必要など)とされている為、バイパス手術になる可能性があります。

 また患者様が高齢の場合は、手術による体の負担を考慮してカテーテル治療を選択されることが多くありますが、重い糖尿病だったり、透析患者様の場合は、冠動脈全体が悪い状態であることが多いため、一度に状況を改善させるバイパス手術が優先されることがあります。

 冠動脈バイパス手術

 冠動脈が完全閉塞性した病変や高度石灰化など複雑な病変、また何か所もの狭窄が見られる場合ではPCIによる治療自体が困難なケースもあります。そのような場合には冠動脈バイパス手術の方がより望ましい場合があります。バイパス手術は、冠動脈の狭窄部には手をつけず、体のほかの場所の血管(グラフト)を使って、狭窄した血管の先に別の血管をつなげ、新たな血液の通り道(バイパス)をつくるものです。

 具体的な手術方法は症例によって異なりますが、一般的な冠動脈バイパス術は以下のような手順で行われます。

  1. ①開胸:全身麻酔下にて、執刀医のDrが開胸を行います。
  2. ②グラフト採取:体の他の場所の血管(グラフト)を採取します。症例にもよりますが、基本的には大不在静脈・左右内胸動脈・胃大網動脈のどれかをグラフトとして採取する場合が殆どです。
  3. ③グラフト吻合:採取した他の場所のグラフトを狭窄の先の冠動脈に吻合します。患者様の状態によっては人工心肺(心臓と肺の代わりをする装置)を使用し、心臓への負担を一時的にカバーしたり、心臓の拍動を停止した状態で吻合する場合があります。
  4. ④冠動脈の血流の確認:吻合した冠動脈が正常な血流となっているか確認をします。
  5. ⑤閉胸:患者様の全身状態に注意しながら閉胸し、手術終了です。

入院~退院後の流れと、リハビリについて

心臓手術を受ける患者の入院から退院後に至るまでのプロセスと、心臓リハビリテーションについては以下のリンクをご参照ください。
入院中のケアから、退院後の生活への適応、そして心臓リハビリテーションを通じての健康回復と生活質の向上に至るまで、ご紹介しています。

よくある質問

こちらのコラムの内容の要点を「よくある質問」からまとめています。

心筋梗塞とは何ですか?

心筋梗塞は、心臓の筋肉(心筋)に血液を供給する冠動脈の閉塞により、心筋が壊死(死滅)する病状です。この状態は、血流の遮断により心筋が十分な酸素や栄養を得られないために発生します。

心筋梗塞の主な原因は何ですか?

心筋梗塞の主な原因は動脈硬化で、これは冠動脈の内壁に脂質やコレステロールが蓄積し、血栓やプラークを形成することによって起こります。これにより血流が妨げられ、心筋梗塞を引き起こすリスクが高まります。

心筋梗塞の診断にはどのような検査が用いられますか?

心筋梗塞の診断には、心電図検査、胸部X線検査、血液検査(トロポニンやCPKなどの心臓マーカー測定)、心エコー検査、冠動脈造影検査、心筋シンチグラフィ、心臓MRIなどが用いられます。

心筋梗塞の治療法にはどのようなものがありますか?

心筋梗塞の治療法には、薬物療法(ニトログリセリン、β遮断薬、利尿薬、ACE阻害薬など)、経皮的冠動脈形成術(PCI)、冠動脈バイパス手術(CABG)などがあります。治療は、梗塞の範囲や患者の状態によって異なります。

心筋梗塞の予防には何が重要ですか?

心筋梗塞の予防には、健康的なライフスタイルを維持することが重要です。これには、バランスの良い食事、定期的な運動、禁煙、ストレスの管理、定期的な健康診断などが含まれます。また、高血圧、糖尿病、高脂血症などのリスク要因を適切に管理することも重要です。

関連コラム

【参考文献】

・国立循環器病研究センター
https://www.ncvc.go.jp/coronary2/disease/acute_myocardial/index.htm

・一般社団法人 日本循環器学会
急性冠症候群ガイドライン(2018年改訂版)
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2018/11/JCS2018_kimura.pdf

心疾患情報執筆者

心疾患情報執筆者

竹口 昌志

看護師

プロフィール

看護師歴:11年
《主な業務歴》
・心臓血管センター業務(循環器内科・心臓血管外科病棟)
・救命救急センター業務(ER、血管造影室(心血管カテーテル、脳血管カテーテル)
 内視鏡室、CT・MRI・TV室など)
・手術室業務
・新型コロナウイルス関連業務
(PCR検査センター、コロナ救急外来、HCU、コロナ病棟、コロナ療養型ホテル、コールセンター)

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