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胸部大動脈瘤

大動脈疾患

胸部大動脈瘤の概要

胸部大動脈瘤(Thoracic Aortic Aneurysm:TAA)は、胸部に位置する大動脈がコブ状に膨れ上がった状態です。胸部大動脈瘤は大動脈の壁が弱くなることで起こります。原因としては、高血圧、動脈硬化、遺伝的要素、炎症性疾患、外傷などが考えられます。胸部大動脈瘤は基本的に無症状ですが、大動脈瘤を治療せず放置した場合、拡大した瘤は破裂し大量出血を起こします。大動脈瘤が破裂し処置が遅れると多くは死に至ります。大動脈瘤は、早期に発見し適切な治療をすることにより、瘤の破裂による突然死を未然に防ぐことができます。

胸部大動脈瘤と動脈について

大動脈は外膜、中膜、内膜の3層で成り立っており、心臓から送り出された血液が最初に流入する太い血管で、胸部から腹部にかけて位置しています。胸部大動脈瘤は、上行大動脈瘤・弓部大動脈瘤・下行大動脈瘤・胸腹部大動脈瘤に分けられ、そこから細い血管が分岐して頭や腕に血液を送っています。大動脈瘤の形態分類では、真性、仮性、解離性の3つに区別され、形状による分類では、紡錘状、嚢状の2つに区別されます。

胸部大動脈瘤の発生頻度

上行大動脈:40%
大動脈弓部:10%
下行大動脈:35%
上腹部ー胸腹部大動脈:15%

大動脈瘤の形態分類

  • 真性大動脈瘤:瘤状の膨らみができる状態
  • 解離性大動脈瘤:内膜の亀裂で血管壁内に血液流入し中膜が解離した状態
  • 仮性大動脈瘤:動脈壁の一部が欠け、3層構造を有していない状態

形状の分類

  • 紡錘状大動脈瘤:血管の壁の3層構造が保たれたまま瘤状の膨らむ瘤
  • 嚢状大動脈瘤:大動脈に非対称的に膨らむ瘤

胸部大動脈瘤 発症の原因

胸部大動脈瘤で最も多い原因は高血圧であり、その他に動脈硬化、先天性疾患、炎症性疾患などに起因するものがあります。主に以下の原因が考えられます。

高血圧

高血圧は胸部大動脈瘤の最も多い原因の一つです。高血圧は大動脈壁に持続的なストレスによって壁が弱くなることがあり、それが大動脈瘤を形成します。

動脈硬化

動脈硬化は、血管壁が硬くなり、柔軟性を失う状態です。動脈硬化が進行すると、大動脈壁が弱くなり、瘤が発生しやすくなります。高血圧、高脂血症、糖尿病などが動脈硬化を引き起こし、これが大動脈壁の弱化につながる場合もあります。

遺伝的要因

先天性の遺伝的疾患である、マルファン症候群やエーラース・ダンロス症候群、ロイス・ディーツ症候群は、大動脈壁の弱化と瘤の発生のリスクを高めます。

炎症性疾患

炎症性疾患の動脈炎なども大動脈壁の弱化と瘤発生のリスクを高める可能性があります。

外傷と手術

胸部への重度の外傷や過去に行われた心臓手術も、大動脈瘤の発症に影響を与える可能性があります。

生活習慣

喫煙、高脂肪・高カロリーの食生活、運動不足も、動脈硬化を促進し結果的に大動脈瘤のリスクを高める可能性があります。

年齢と性別

一般的に、年齢が高くなると大動脈瘤のリスクが高まります。また、男性は女性よりも発症リスクが高いとされています。

胸部大動脈瘤の症状

胸部大動脈瘤の特徴は、ほとんどが無症状であり瘤が大きくなるまで自覚症状がないことです。そのため、検診などで偶然発見されることが多く、大動脈瘤を放置していたため拡大した瘤が破裂し致死的となります。以下は胸部大動脈瘤の主な症状です。

無症状

胸部大動脈瘤は初期段階ではしばしば無症状であり、これは特に危険であり、瘤が破裂するまで気づかない可能性があります。他の健康診断の過程で偶然発見されることが多いです。

胸痛

瘤が大きくなると、胸部に圧迫感や痛みを感じる場合があります。この痛みは通常、胸の中央または背中に感じ ます。

呼吸困難

 瘤が気管や肺に圧迫をかけると、呼吸困難が生じる可能性があります。

咳と声のかすれ

 瘤が気管支や声帯の近くにある場合、咳や声のかすれが起こることがあります。

脈拍の異常

 瘤が大きくなり、大動脈の血流に影響を与えると、脈拍が不規則になる可能性があります。

ショック

 瘤が破裂した場合、突然激しい胸痛が起こり、大量出血による急激な血圧低下など生命にかかわるショック状態となります。速やかに救 命のための医療処置が必要です。

胸部大動脈瘤の診断

胸部X線検査

胸部X線検査は、心臓や肺の画像を提供する検査です。大動脈陰影の拡大など特徴的な胸部大動脈瘤の所見が見られることがあります。

心エコー検査

心エコー検査は、心臓の詳細な画像を提供する非侵襲的な検査です。大動脈瘤の大きさ、形状、血流や内腔・周囲の性状などを調べるのに有用な検査です。

血液検査

血液検査は、採血を行い血液中の血球成分を測定する検査です。血管の炎症や凝固線溶系の活性化が起こるとD-ダイマーの上昇が見られるので胸部大動脈瘤の可能性が高まります。また、炎症値の上昇や出血により貧血が見られることがあります。

CT検査

CT検査は、エックス線を用いて輪切りの画像を撮影する検査です。造影CT検査は、血管や病変をより詳しく調べるために造影剤を静脈から注入しながら、X線を体の周囲に照射して輪切りの断面画像を抽出する検査です。胸部大動脈瘤が疑われた場合、CT検査が行われ、特に造影CT検査では、瘤の大きさや形、位置などの評価や診断と治療に必要な情報が全て得られます。

心臓MRI検査

心臓MRIは、より詳細な心臓の画像を提供する検査です。胸部大動脈瘤の詳細な評価が必要な場合に行われます。

胸部大動脈瘤の保存的治療・対症療法

胸部大動脈瘤は通常、直径50㎜以上ある場合は手術が検討され、直径60㎜を超えると手術の適応となります。大動脈瘤が小さく無症状の場合は、血圧コントロールを図り瘤径や拡張状況などの進行をモニタリングしながら経過観察を行います。保存的治療の最大の目的は、未然に大動脈瘤の破裂を防ぐことです。大動脈瘤が破裂した場合、生命の危険があるため、すぐに医療介入が必要で緊急手術となる可能性が高くなります。

経過観察

瘤径が小さい場合、すぐに手術を行わずに定期的な心エコー検査やCT検査などで瘤の大きさなど大動  脈瘤の進行をモニタリングしながら経過観察を行います。

生活習慣の改善

喫煙は心臓に追加のストレスを加えるため、禁煙が強く推奨されます。健康的な食事(塩分や飽和脂肪の少ない食事)、適度な運動、体重の管理も心臓の健康を支えます。

血圧コントロール

高血圧は血管に常に高い圧力がかかり、瘤の拡大を促進する可能性があります。高血圧をコントロールするた めに、β-ブロッカーやカルシウム拮抗剤などの降圧薬が処方される場合があります。

呼吸困難の緩和

呼吸困難がある場合、酸素療法が行われることがあります。これにより、患者様の酸素飽和度を改善し、呼吸 困難の症状を軽減します。また、気管支拡張薬が用いられることもあります。

緊急症状の対応

瘤が破裂または解離疑いがある場合、致死的リスクが高いため即座に医療介入が必要です。検査にて破裂や解離が確認された場合、通常緊急外科手術が選択されます。

胸部大動脈瘤の外科的治療法(手術について)

高血圧の薬物治療により大動脈瘤の拡大を遅くすることができる可能性はありますが、大動脈瘤を根治させる薬物はありません。治療するには外科的手術が必要です。

手術のタイミングは、大動脈瘤の大きさ(直径5~6cm以上を1つの目安として)、形状(嚢状大動脈瘤の場合は小さくても破裂の危険性が高い)、大動脈瘤の拡大速度、年齢、全身状態などを総合的にみて決めることになります。大動脈瘤が大きくなると破裂して致死的な状態に陥ります。CT検査などで破裂の危険性が高まったと考えられる場合には、破裂を防止するための緊急手術が必要です。

大動脈瘤の外科的手術は、太くなった血管を人工血管に置き換える「人工血管置換術」と、大動脈瘤の中に人工血管を入れて破裂を予防する「ステントグラフト内挿術」があります。

人工血管置換術 手技手順

人工血管置換術は、主に上行大動脈や弓部大動脈の瘤に対して行なわれます。

  1. 開胸:全身麻酔下にて、執刀医のDrが開胸を行います。
  2. 体外循環開始:手術中の心臓と肺の役割を人工心肺という外部の装置に任せます。大動脈の血流を遮断し、心筋保護液という薬剤を心臓に流し、心臓の拍動を停止させ、心臓の動きを完全に停止させます。
  3. 循環停止:脳への血流以外の全ての血流を遮断します。
  4. 人工血管の縫合:解離した血管を取り除き、人工血管を吻合します。
  5. 循環再開:人工心肺からの全身の血流を再開させます。
  6. 体外循環再開:心臓の拍動を再開させて、人工心肺を停止します。
  7. 閉胸:患者様の全身状態に注意しながら閉胸し、手術終了です。

ステントグラフト内挿術

ステントグラフトとは、人工血管にステントと言われるバネ状の金属を取り付けたものです(図10)。これを圧縮した状態でカテーテル(細い管)の中に収納し、カテーテルを治療する部位(解離したところ)にまで運び(足の付け根などから動脈に入れて移動させます)、その場所でステントグラフトを広げて留置します。

ステントグラフト内挿術のメリット、デメリット

メリットは、人工血管置換術が胸を切り開く手術であるのに対し、こちらはカテーテルを利用した傷の小さな手術である、という点です。そのため、手術後の痛みが少なく、手術時間も入院期間も短くなります。出血量が少ないので輸血を必要とすることも稀です。血管の損傷、臓器虚血、血栓塞栓症などといった合併症の発生率は、人工血管置換術よりも低いレベルにあります。

人工血管置換術に比べると、人工心肺を使わずに済み、心臓を止める時間も短くできて、患者さんにとって体の負担が少ない手術になります。

デメリットは、手術中や手術後、発熱や胸水貯留などが発生することがあります。また退院後も、ステントグラフトの変形・破損・移動・感染などに注意が必要です。

入院~退院後の流れと、リハビリについて

心臓手術を受ける患者の入院から退院後に至るまでのプロセスと、心臓リハビリテーションについては以下のリンクをご参照ください。
入院中のケアから、退院後の生活への適応、そして心臓リハビリテーションを通じての健康回復と生活質の向上に至るまで、ご紹介しています。

よくある質問

こちらのコラムの内容の要点を「よくある質問」からまとめています。

胸部大動脈瘤とは何ですか?

胸部大動脈瘤(Thoracic Aortic Aneurysm、TAA)は、胸部に位置する大動脈がコブ状に膨れ上がった状態を指し、大動脈の壁が弱くなることで起こります。

胸部大動脈瘤の原因には何がありますか?

胸部大動脈瘤の原因には、高血圧、動脈硬化、遺伝的要素、炎症性疾患、外傷などがあります。

胸部大動脈瘤の診断方法は何ですか?

胸部大動脈瘤の診断方法には、胸部X線検査、心エコー検査、CT検査、血液検査、心臓MRI検査などがあります。

胸部大動脈瘤の治療法にはどのようなものがありますか?

胸部大動脈瘤の治療法には、保存的治療・対症療法(血圧コントロール、経過観察など)と外科的治療法(人工血管置換術、ステントグラフト内挿術など)があります。

胸部大動脈瘤は無症状であることが多いと聞きましたが、どのような症状があらわれる可能性がありますか?

胸部大動脈瘤は通常無症状ですが、大きくなると胸痛、呼吸困難、咳や声のかすれ、脈拍の異常などが現れることがあります。瘤が破裂すると、激しい胸痛やショック状態に陥ることもあります。

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【参考文献】
・国立循環器病研究センター
https://www.ncvc.go.jp/hospital/section/cvs/vascular/vascular-tr-01/

・日本血管外科学会https://www.jsvs.org/common/kyobu/index.html#:~:text=%E8%83%B8%E9%83%A8%E5%A4%A7%E5%8B%95%E8%84%88%E7%98%A4%E3%81%A8%E3%81%AF%E3%80%81%E8%BA%AB%E4%BD%93%E3%81%AE%E4%B8%AD%E3%81%A7%E4%B8%80,%E5%A4%A7%E5%8B%95%E8%84%88%E7%98%A4%E3%81%A8%E5%91%BC%E3%81%B3%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82

・2020年改訂版 大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドライン
一般社団法人 日本循環器学会
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2020/07/JCS2020_Ogino.pdf

心疾患情報執筆者

心疾患情報執筆者

竹口 昌志

看護師

プロフィール

看護師歴:11年
《主な業務歴》
・心臓血管センター業務
(循環器内科・心臓血管外科病棟)
・救命救急センター業務
(ER、血管造影室[心血管カテーテル、脳血管カテーテル]
内視鏡室、CT・MRI・TV室など)
・手術室業務
・新型コロナウイルス関連業務
(PCR検査センター、コロナ救急外来、HCU、コロナ病棟、
コロナ療養型ホテル、コールセンター)

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