株式会社増富

高度管理医療機器等販売業 許可番号 第100327号

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僧帽弁閉鎖不全症

心臓弁膜症

僧帽弁閉鎖不全症の概要

僧帽弁は、心臓の左心房と左心室の間に位置する弁です。この弁は、心臓の動作において重要な役割を果たしており、心臓の機能を維持するのに欠かせない部分です。

僧帽弁の主な役割は、血液の逆流を防ぐことです。心臓の左心房から左心室に血液が送り出される際に僧帽弁が開き、血液がスムーズに左心室に流入します。そして、心臓が収縮すると同時に僧帽弁は閉じ、血液が左心室から動脈に送り出されることで体へ酸素と栄養を供給します。

この僧帽弁がなんらかの原因で上手く開閉せず、心臓の中で血液が逆流してしまう状態を僧帽弁閉鎖不全症(僧帽弁逆流症)といいます。この状態になると心臓は様々な負荷がかかり、徐々に心機能が低下する可能性があります。早期の診断と治療が重要であり、必要に応じて適切な処置を行うことが、患者様の健康を維持する上で大切な役割を果たします。

僧帽弁の構造について

僧帽弁の構造は、主に以下の3つの部分から成り立っています。

弁尖(べんせん)

僧帽弁は前尖と後尖という2つの弁尖からなります。これらの弁尖は、心臓の収縮と拡張に合わせて開閉します。閉鎖不全症の場合、弁尖が十分に閉じず、血液の逆流が生じることがあります。

腱索(けんさく)

腱索は僧帽弁の弁尖を開閉する為のひも状の組織です。腱索は左心室壁の乳頭筋から伸びており、心臓の拡張期に弁尖を左心室側に引っ張ります。

弁輪(べんりん)

僧帽弁の外周を支えるリング状の組織です。径が広がり弁輪が拡張すると、弁尖がきちんと閉じなくなる事があります。

僧帽弁閉鎖不全症 発症の原因

僧帽弁閉鎖不全症は、一次性(器質性)と二次性(機能性)に分けられます。

一次性の僧帽弁閉鎖不全症は、変性(僧帽弁逸脱症、加齢に伴う変性など)、感染症、リウマチ熱、先天性、外傷が原因となります。そして弁輪が拡大する・腱索が切れる・伸びきるなどして弁尖がしっかりと閉じなくなります。また、感染性心内膜炎などによって僧帽弁の組織が破壊され、一次性の僧帽弁閉鎖不全症が生じることもあります。

一方、二次性の僧帽弁閉鎖不全症は、心筋梗塞や拡張型心筋症、心房細動といった重篤な病気に伴って心臓が拡大することで起こります。心筋梗塞は喫煙や脂質代謝異常、高血圧、糖尿病などがリスク因子になることから、二次性の僧帽弁閉鎖不全症は生活習慣と間接的に関与している可能性があります。

僧帽弁閉鎖不全症の症状

基本的に初期は無症状のことが多いですが、進行すると心不全症状と呼ばれる以下の症状が起きます。

息切れ(特に体を動かしたとき)
呼吸困難
手足のむくみなど

重度の閉鎖不全または急速な進行を示す場合、このような心不全症状が悪化しさらに重篤な症状が現れることもあります。左心房の負担が増えることで不整脈(心房細動)が起きやすくなり、心房細動にともない心臓内に血栓(血の塊)が形成され、血栓塞栓症(脳梗塞)を引き起こす危険性もあります。

このような心不全の症状は放置すると悪化していき、最終的には心臓の機能が破綻して、命に関わることもあります。特に僧帽弁閉鎖不全症の場合、血液の逆流量が多くても無症状であるケースも見られます。早期に診断し、必要な治療を検討することが重要です。

僧帽弁閉鎖不全症の診断

聴診

医師は胸部を聴診することで、心音を聞き取ることができます。僧帽弁閉鎖不全症では、血液の逆流による特徴的な雑音が聴取されることがあります。

心電図検査

心電図は、心臓の電気的な活動を記録する検査です。僧帽弁閉鎖不全症では、左心房・ 左心室に負荷がかかり、心電図に特徴的な波形が現れることがあります。

胸部X線検査

胸部X線検査は、心臓や肺の画像を提供する検査です。僧帽弁閉鎖不全症では、心臓の 拡大や 肺血流の変化が見られることがあります。

心エコー検査

心エコー検査は、心臓の詳細な画像を提供する非侵襲的な検査です。心臓の僧帽弁の構 造や機能、血液の逆流などが確認されます。弁膜症の重症度の判定は主に心エコー検査 にて行います。

血液検査

血液検査は、採血を行い血液中の血球成分を測定する検査です。心室に負担があると分 泌されるBNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)というホルモンは心不全(心機能の低下)の病態を知るのに有用です。BNPの血中濃度を測定し、心機能低下の程度を把握します。

心臓カテーテル検査

心臓カテーテル検査は、心臓に細い管(カテーテル)を挿入し、直接心臓内部の圧力や血液流れを測定する検査です。重度の症例や他の検査で診断が難しい場合に行われることがあります。

心臓MRI検査

心臓MRIは、より詳細な心臓の画像を提供する検査で、僧帽弁の形態や機能、血流の状 態を評価するのに役立ちます。

僧帽弁閉鎖不全症の治療法

保存的治療

経過観察

軽度または初期の僧帽弁閉鎖不全症では、症状が軽い場合や病態が安定している場合  には、経過観察が選択されることがあります。定期的な医療チェックと検査を通じて  病態の進行を把握し、適切なタイミングで治療を検討します。

薬物療法

心臓の負担を軽減するために、利尿剤(利尿作用を持つ薬)心臓の収縮を改善する薬(降圧薬)などが使用される場合があります。これらの薬物は症状の改善や心機能の安定化に役立ちます。

生活習慣の改善

喫煙は心臓に追加のストレスを加えるため、禁煙が強く推奨されます。健康的な食事(塩分や飽和脂肪の少ない食事)、適度な運動、体重の管理も心臓の健康を支えます。

対症療法

呼吸困難の管理

呼吸困難がある場合、酸素療法が行われることがあります。これにより、患者様の酸素飽和度を改善し、呼吸困難の症状を軽減します。

不整脈の管理

心房細動などの不整脈がある場合、薬物療法やカテーテルアブレーション(不整脈を治
療する方法の一つ)が行われることがあります。

ただし、重度の僧帽弁閉鎖不全症や症状が進行している場合、保存的治療や対症療法だけでは対処できないこともあります。このような場合には、僧帽弁形成術、または置換手術などの根治術が検討されることがあります。手術は病態や症状の程度、患者様の年齢や体力などを考慮して、専門医と相談した上で適切な治療法を選択する必要があります。

外科的治療法(手術について)

僧帽弁形成術

僧帽弁形成術は、僧帽弁の機能を改善する外科的な治療方法です。この手術では、自己弁を温存し、僧帽弁の弁尖や腱索、僧帽弁輪に異常がある場合にそれらを修復する事を目的とします。手術によって僧帽弁の形状や機能が改善されることで、血液の逆流を減少させることが期待されます。

手技手順

具体的な手術方法は症例によって異なりますが、一般的な僧帽弁形成術は、以下のような手順で行われます。

①開胸

全身麻酔下にて、執刀医のDrが開胸を行います。皮膚→胸骨→心膜の順に切開し心臓を露出させます。

②体外循環開始

手術中の心臓と肺の役割を人工心肺という外部の装置に任せ、全身の血流を確保します。心筋保護液という薬剤を心臓に流し、一時的に心臓の動きを停止させます。

④心臓機能の回復

切り開いた大動脈・心臓を縫合し閉じていきます。心臓の再拍動の為のHot shot(温めた血液と心筋保護液の混合液)を流し、心臓を再拍動させて人工心肺を停止します。心臓の動きが自然に回復することを確認し、止血を行いながら閉胸していきます。

⑤閉胸

患者様の全身状態に注意しながら心膜→胸骨→皮膚の順に閉じて手術終了です。

僧帽弁置換術

僧帽弁置換術は、僧帽弁の機能を回復する外科的な治療方法です。この手術では、自己の弁を人工弁に置き換える事により、血液の逆流を減少させることが期待されます。僧帽弁形成術とは違い、自己の弁を修復するのではなく、人工弁をインプラントする事が大きな特徴です。

僧帽弁置換術の種類

僧帽弁置換術にてインプラントする人工弁は主に二種類あります。

1.機械弁

カーボンなどの人工的な素材で作られた機械式の弁です。耐久性が高く、長期的な成績が期待されますが、血栓が付着しやすい事から抗凝固薬(血液をサラサラにする薬)の服用が必要になる場合が殆どです。主に比較的年齢の若い患者様(〜60歳)に使用される事が多いです。

2.生体弁

豚や牛の生体組織から作られた人工の弁です。抗凝固薬の服用が機械式弁よりも少なく済む事や、術後の血行動態は良いですが、弁の耐久性が比較的低いです(約20年)。高齢の患者様に使用されるケースが多く、若い患者様には再手術が必要になることがあります。

手技手順

具体的な手術方法は症例によって異なりますが、一般的な僧帽弁置換術は、以下のような手順で行われます。

①開胸

全身麻酔下にて、執刀医のDrが開胸を行います。皮膚→胸骨→心膜の順に切開し心臓を露出させます。

②体外循環開始

手術中の心臓と肺の役割を人工心肺という外部の装置に任せ、全身の血流を確保します。心筋保護液という薬剤を心臓に流し、一時的に心臓の動きを停止させます。

③僧帽弁の置換

大動脈を切り開き、心臓側にある元の僧帽弁を取り除き、人工弁と入れ替えます。

④心臓機能の回復

切り開いた大動脈・心臓を縫合し閉じていきます。心臓の再拍動の為のHot shot(温めた血液と心筋保護液の混合液)を流し、心臓を再拍動させて人工心肺を停止します。心臓の動きが自然に回復することを確認し、止血を行いながら閉胸していきます。

⑤閉胸

患者様の全身状態に注意しながら心膜→胸骨→皮膚の順に閉じて手術終了です。

僧帽弁形成術と僧帽弁置換術:メリットとデメリット

症例にもよりますが、僧帽弁形成術は生存率、心臓機能の回復度、合併症や感染症の回避、さらには抗凝固薬の服用の必要性が無いなど、あらゆる面で僧帽弁置換術より優れています。しかし、弁形成術は弁置換術と比べ、高い外科的技術が必要となります。

手術時間から見ると、高齢者では弁形成術の手術時間がリスクとなる場合も多く、僧帽弁置換術の手術時間が短いことなどから、そちらの術式を選択される場合も多いようです。また、病変が広範囲に進行、心臓の状態が悪い患者様でも弁置換術が選択される傾向にあります。

適切な手術の選択は患者様の年齢、全身状態、リスク、合併症の有無などを考慮して行われます。また、患者様との共有意思決定が重要であり、医師は患者様に対してリスクと利益について十分な説明を行い、最適な治療法を選択するために努めます。

手術の危険性は?

患者様の体力、年令、合併症等によって影響されます。人工心肺に医師によく説明を聞くことが大切です。心臓弁膜症の合併症としては、術後の出血、心不全、不整脈、呼吸障害、脳梗塞、創感染があります。危険率に関しては手術死亡率約4%との報告があります。

カテーテル治療

外科的手術が必要であるにも関わらず、年齢や併存症のためリスクが高いと判断された患者様には根治療法がありませんでしたが、近年カテーテルの技術を用いた「経皮的僧帽弁接合不全修復術」という新たな治療ができるようになりました。この治療は、足の付け根の静脈からカテーテルを挿入し右心房から左心房を経て、「MitraClip(マイトラクリップ)」という器具で僧帽弁をつかんで引き合わせることにより、逆流を減らす治療です。従来の外科手術よりも体にかかる負担が少なく、入院期間もより短く済みます。

僧帽弁閉鎖不全症の合併症と予後

心不全の発症リスクと管理

心不全の発症リスク

僧帽弁閉鎖不全症による心不全の発症リスクは、僧帽弁の機能障害によって血液が心臓の逆方向に逆流することにより、心臓への負担が増加することに起因します。逆流した血液が心房に戻ることで、心房が拡大し、心臓の動きが不調になります。これにより、心臓は正常に血液を効率的に送り出すことが難しくなり、心不全が発症する可能性が高まります。

他にも、僧帽弁閉鎖不全症によって肺高血圧症が進行することがあるため、肺の血管が収縮して血液の流れが制限される状態になることも心不全のリスクを増加させます。心不全によって、全身の組織に十分な酸素と栄養が供給されず、患者様の生活の質が低下する可能性があります。

心不全の管理

薬物療法

心不全の症状を緩和し、心臓の負担を軽減するために、利尿剤(利尿作用を持つ薬)、降圧薬(心臓の収縮を改善する薬)、ベータ遮断薬(心臓の負担を軽減する薬)などが使用されることがあります。

呼吸困難の管理

心不全による呼吸困難を緩和するために、酸素療法やブロンコドイラーター(気管支拡張薬)が使用されることがあります。

食事と生活の管理

塩分制限や水分制限などの食事管理と、適度な運動を行うことで、心臓への負担を軽減します。

重篤な場合の検討

心不全が重篤な場合や薬物療法が効果的でない場合には、心臓移植や心臓補助装置の検討が行われることがあります。

心不全の管理は、患者様の症状や身体所見、心機能の状態に応じて個別化されます。また、治療計画は病状の進行に合わせて調整されることがあります。医師との定期的なフォローアップとコミュニケーションは、心不全の管理において重要な要素となります。早期の発見と適切な管理により、心不全の進行を遅らせることが期待されます。

長期的な予後とフォローアップの重要性

病態の進行把握: 僧帽弁閉鎖不全症は、症状や患者様の身体状態によって進行が異なる疾患です。長期的な予後のモニタリングを行うことで、病態の進行を把握し、適切な治療を行うことが可能となります。

合併症の早期発見: 僧帽弁閉鎖不全症は、進行すると心不全や心房細動などの合併症が生じる可能性があります。定期的なフォローアップによって、これらの合併症を早期に発見し、適切な治療を開始することができます。

治療効果の評価: 長期的な予後のモニタリングは、治療効果を評価するためにも重要です。治療が効果的であるかどうかを定期的に評価することで、必要に応じて治療計画を調整することができます。

入院~退院後の流れと、リハビリについて

心臓手術を受ける患者の入院から退院後に至るまでのプロセスと、心臓リハビリテーションについては以下のリンクをご参照ください。
入院中のケアから、退院後の生活への適応、そして心臓リハビリテーションを通じての健康回復と生活質の向上に至るまで、ご紹介しています。

よくある質問

こちらのコラムの内容の要点を「よくある質問」からまとめています。

僧帽弁閉鎖不全症とは何ですか?

僧帽弁閉鎖不全症は、心臓の左心房と左心室の間にある僧帽弁が正しく閉じないことにより、血液が逆流する状態を指します。これにより心臓に負担がかかり、心機能が低下する可能性があります。

僧帽弁閉鎖不全症の原因は何ですか?

僧帽弁閉鎖不全症は一次性(器質性)と二次性(機能性)に分けられ、原因には弁輪の拡大、腱索の切れや伸び、心筋梗塞、拡張型心筋症などがあります。

僧帽弁閉鎖不全症の症状は何ですか?

初期は無症状のことが多いですが、進行すると息切れ、呼吸困難、手足のむくみなどの心不全症状が現れます。重度の場合はこれらの症状が悪化し、心房細動や脳梗塞のリスクも増加します。

僧帽弁閉鎖不全症の診断方法にはどのようなものがありますか?

診断には聴診、心電図、胸部X線、心エコー検査、血液検査、心臓カテーテル検査、心臓MRIが用いられます。これらの検査により僧帽弁の状態、心機能の低下を評価します。

僧帽弁閉鎖不全症の治療方法は何ですか?

軽度または初期の場合は経過観察や薬物療法、生活習慣の改善が行われます。重度の場合は外科的治療法(僧帽弁形成術や僧帽弁置換術)が検討されます。また、カテーテル治療も選択肢の一つです。

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【参考文献】

・一般社団法人 日本循環器学会
https://www.j-circ.or.jp/sikkanpg/case/case6/about5.htm#6-5-2

・弁膜症治療のガイドライン
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2020/04/JCS2020_Izumi_Eishi.pdf

心疾患情報執筆者

心疾患情報執筆者

竹口 昌志

看護師

プロフィール

看護師歴:11年
《主な業務歴》
・心臓血管センター業務(循環器内科・心臓血管外科病棟)
・救命救急センター業務(ER、血管造影室(心血管カテーテル、脳血管カテーテル)
 内視鏡室、CT・MRI・TV室など)
・手術室業務
・新型コロナウイルス関連業務
(PCR検査センター、コロナ救急外来、HCU、コロナ病棟、コロナ療養型ホテル、コールセンター)

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