株式会社増富

高度管理医療機器等販売業 許可番号 第100327号

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虚血性心疾患

MAZE手術

心臓手術

MAZE手術概要

MAZE手術とは

MAZE手術は、不整脈の一種である心房細動を治療するための外科手術です。この手術は1980年代に開発され、心房細動を引き起こす電気信号の異常な経路を遮断することを目的としています。具体的には、心臓の左右の心房に複数の切開や焼灼を行い、心房細動が発生しないように正常な心臓リズムを回復させるための「迷宮(maze)」を作成します。

MAZE手術の目的

MAZE手術の主な目的は、心房細動によって失われた心臓の正常なリズムを回復させることです。この手術により、以下の効果が期待されます:

  • 心房細動の根治: 心房細動を引き起こす原因となる異常な電気信号を遮断し、心房細動を根治します。
  • 脳卒中リスクの低減: 心房細動は脳卒中のリスクを高めますが、MAZE手術により心房細動を解消することで、このリスクを大幅に低減させることが可能です。
  • 生活の質の改善: 心房細動に伴う症状(息切れ、疲労感、動悸など)が改善され、日常生活の質が向上します。

適応症

MAZE手術は特に心房細動を対象とした治療法ですが、すべての心房細動患者に適しているわけではありません。適応症と心房細動との関係、そして他の治療法との比較を詳細に説明します。

心房細動との関係

心房細動は、心臓の上部に位置する心房が不規則に収縮する状態を指します。この症状は、脳卒中や心不全などのリスクを高めるため、治療が重要となります。MAZE手術の適応症は主に以下の条件に基づきます:

  • 薬物療法によるコントロールが困難な場合: 従来の抗不整脈薬による治療で改善が見られない患者。
  • 他の心臓手術との組み合わせが必要な場合: 心臓弁膜症や冠動脈疾患など、他の心臓病を持ち、それらの治療と合わせてMAZE手術を行う患者。
  • 持続的または長期持続性の心房細動: 一時的な心房細動ではなく、持続的または長期持続性の心房細動を有する患者。

他の治療法との比較

心房細動の治療には、薬物療法、カテーテルアブレーション、MAZE手術など複数の選択肢があります。それぞれの方法は、患者の状態や心房細動のタイプに応じて選択されます。

  • 薬物療法: 最も一般的な初期治療法ですが、すべての患者に効果的ではありません。副作用も考慮する必要があります。
  • カテーテルアブレーション: 不整脈の原因となる心臓内の組織を焼灼することで、心房細動を治療します。低侵襲であり、多くの場合効果的ですが、一部の患者には適さない場合があります。
  • MAZE手術: 特に薬物療法やカテーテルアブレーションで効果が得られなかった場合、または他の心臓疾患の治療と組み合わせる必要がある場合に推奨されます。より侵襲的な手術ですが、長期的な解決策を提供する可能性があります。

MAZE手術の手技

手術前の準備

手術前の準備には、患者の現在の健康状態の評価と手術のリスクや利益に関する包括的な情報提供が含まれます。

必要な検査と評価

手術前に行われる検査と評価は、手術の適応性を判断し、潜在的なリスクを特定するために重要です。これらには以下のものが含まれます:

  • 心電図(ECG): 心房細動の存在とその特性を確認します。
  • 心エコー: 心臓の構造と機能を評価し、心臓病の有無を検査します。
  • 心臓MRI・CT検査: 心臓の解剖学的な詳細を把握し、手術計画に必要な情報を提供します。
  • 血液検査: 基本的な健康状態を把握し、手術中や手術後の合併症のリスクを評価します。
  • 肺機能テスト: 術後の回復過程に影響を及ぼす可能性がある肺の健康状態を確認します。

患者の選定基準

MAZE手術が適切な患者を選定する基準には、以下の要素が含まれます:

  • 心房細動の特徴: 長期間にわたる持続性または長期持続性心房細動の患者が、この手術のが推奨されます。
  • 以前の治療歴: 薬物療法やカテーテルアブレーションに反応しない患者が対象となります。
  • 心臓疾患: 心臓弁膜症や冠動脈疾患など、他の手術が必要な心臓疾患を有する患者が含まれます。
  • 全体的な健康状態: 良好な身体状態と適切な手術リスクを持つ患者が選ばれます。

MAZE手術の手技

手術プロセス

MAZE手術のプロセスは、患者の具体的な状態に応じて異なりますが、一般的な手順は以下の通りです。

切開法の選択

MAZE手術にはいくつかの切開法があり、患者の状態や手術の目的に応じて最適な方法が選択されます。

  • 従来の開心術: 最も一般的な方法で、心臓に直接アクセスするために胸骨を縦に切開します。最も広範な修正が可能ですが、回復には時間がかかります。
  • 最小侵襲手術: 小さな切開を用いる方法で、従来の開心術に比べて回復が早いことが特徴です。しかし、適用できる患者は限られます。

心房の焼灼

心房細動の治療において重要なのが、心房の焼灼プロセスです。このプロセスでは、電気的な異常信号の経路を遮断するために、心臓の特定の部位を焼灼します。

  • 焼灼技術: 高周波エネルギー、冷却技術(クライオアブレーション)、またはレーザーを使用して心房の組織を焼灼し、異常な電気信号の通路を遮断します。

その他の心臓手術との併用

多くの場合、MAZE手術は他の心臓手術と組み合わせて行われます。

  • 心臓弁膜症手術: 心臓の弁の病気がある場合、MAZE手術と同時に弁の修復または交換を行うことができます。
  • 冠動脈バイパス手術: 冠動脈疾患がある患者では、MAZE手術と併せてバイパス手術が行われることがあります。

MAZE手術の手技

術後の管理

術後の管理は、患者の安定化と回復の促進に焦点を当てます。

ICUでの管理

MAZE手術後、患者は通常、ICUに移され、密接な監視と管理が行われます。ICUでの管理には以下のポイントが含まれます:

  • 生命徴候の監視: 心拍数、血圧、酸素飽和度などの生命徴候を連続的に監視します。
  • 疼痛管理: 術後の痛みは患者の快適性と回復に大きく影響するため、適切な疼痛管理が重要です。
  • 呼吸管理: 必要に応じて酸素療法や人工呼吸器の使用を行います。
  • 心臓リズムの監視: MAZE手術の主な目的は心房細動の治療であるため、術後の心臓リズムを監視し、必要に応じて治療を行います。
  • 栄養管理: 適切な水分補給と栄養摂取を通じて、回復をサポートします。

術後の合併症予防

術後の合併症は患者の回復過程に大きく影響を及ぼすため、予防策の実施が重要です:

  • 感染症予防: 手術部位の感染予防のため、適切な創傷ケアと抗生物質の使用が行われます。
  • 深部静脈血栓(DVT)予防: 長時間の安静による血栓形成を防ぐため、下肢の圧迫ストッキングの使用や早期の活動再開が奨励されます。
  • 肺合併症予防: 肺炎や呼吸不全を予防するため、呼吸器ケア、呼吸運動、必要に応じて酸素療法が行われます。
  • 心臓リズム異常の管理: 心房細動の再発や他の心臓リズム異常の予防と管理には、適切な薬物療法や、場合によってはペースメーカーの使用が考慮されます。

MAZE手術のリスクと合併症

一般的なリスク

MAZE手術には、他の手術と同様に、以下のような一般的なリスクが伴います:

  • 麻酔に関連するリスク: 手術中に使用される麻酔薬によるアレルギー反応や呼吸障害など。
  • 出血: 手術中や術後に過剰な出血が起こる可能性があります。
  • 感染症: 手術部位や術後の肺炎など、感染症のリスクがあります。
  • 血栓形成: 手術後に血栓が形成されることで、深部静脈血栓症や肺塞栓症などが起こる可能性があります。

合併症

出血

MAZE手術は心臓に直接介入するため、出血のリスクは一般的な手術よりも高い場合があります。手術中の正確な技術と術後の適切な管理により、このリスクは最小限に抑えられますが、重度の出血が生じた場合は追加の手術が必要になることもあります。

感染症

手術部位の感染は、MAZE手術における一般的な合併症の一つです。さらに、開心術を伴う場合、肺炎や尿路感染症など、他の種類の感染症のリスクも高まります。適切な術前術後のケアと抗生物質の使用により、感染のリスクを低減できます。

心臓リズム障害

MAZE手術の目的は心房細動を治療することですが、手術後に新たな心臓リズム障害が発生することがあります。これは心臓の焼灼部位に関連して発生する可能性があり、一時的なものであることが多いですが、場合によっては長期的な管理が必要になることもあります。

術後の回復と長期的な見通し

短期的な回復過程

MAZE手術後の短期的な回復は、個人差が大きいものの、一般的には以下の段階を経ます:

  • ICUでの過ごし方: 手術直後は集中治療室(ICU)での監視が必要であり、数日間はそこで過ごします。
  • 病院での回復: ICUから一般病棟に移った後も、数日から数週間の入院が必要になることがあります。
  • 自宅での回復: 病院を退院してからも、完全な回復には数週間から数ヶ月を要します。この期間中は、運動の制限や定期的なフォローアップが必要です。

長期的な健康状態の改善

再発の可能性

MAZE手術は心房細動の再発リスクを著しく低減させますが、すべての患者で100%の成功率が保証されるわけではありません。一部の患者では手術後に心房細動が再発する可能性があり、その場合は追加の治療が必要になることがあります。

生活の質の向上

多くの患者において、MAZE手術は生活の質を大幅に向上させます。心房細動に関連する症状(例:動悸、息切れ、疲労感)が改善されることで、日常生活の向上が期待できます。

さらに、心房細動による脳卒中リスクが低減されることで、長期的な健康状態が改善され、患者の安心感が増します。

入院~退院後の流れと、リハビリについて

心臓手術を受ける患者の入院から退院後に至るまでのプロセスと、心臓リハビリテーションについては以下のリンクをご参照ください。
入院中のケアから、退院後の生活への適応、そして心臓リハビリテーションを通じての健康回復と生活質の向上に至るまで、ご紹介しています。

よくある質問

こちらのコラムの内容の要点を「よくある質問」からまとめています。

MAZE手術とは何ですか?

MAZE手術は、心房細動を治療するために開発された外科手術で、心臓の左右の心房に複数の切開や焼灼を行い、異常な電気信号の経路を遮断して心房細動を根治することを目的としています。

MAZE手術の目的は何ですか?

MAZE手術の目的は、心房細動による不正な心臓リズムを正常化し、心房細動の根治、脳卒中リスクの低減、および生活の質の向上を実現することです。

MAZE手術の適応症は何ですか?

MAZE手術は、薬物療法でコントロールが困難な場合、他の心臓手術との組み合わせが必要な場合、または持続的または長期持続性の心房細動がある患者に推奨されます。

MAZE手術における他の治療法との比較は?

心房細動の治療法には、薬物療法、カテーテルアブレーション、MAZE手術があります。MAZE手術は、特に他の方法で効果が得られなかった場合や、他の心臓疾患の治療と組み合わせる必要がある場合に推奨されます。

MAZE手術のリスクと合併症には何がありますか?

MAZE手術には麻酔に関連するリスク、出血、感染症、血栓形成などの一般的なリスクが伴います。また、手術後には新たな心臓リズム障害が発生する可能性があります。

関連コラム

【参考文献】

・一般社団法人 日本循環器学会
不整脈非薬物治療ガイドライン(2018 年改訂版)
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2018/07/JCS2018_kurita_nogami.pdf

・一般社団法人 日本循環器学会
弁膜症治療のガイドライン
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2020/04/JCS2020_Izumi_Eishi.pdf

【株式会社増富の関連コラム】
不整脈とは
心房細動
カテーテルアブレーション
弁膜症

心疾患情報執筆者

心疾患情報執筆者

増田 将

株式会社増富 常務取締役

プロフィール

医療現場支援歴:10年
《主な業務歴》
・医療現場支援歴:10年
・循環器内科カテーテル治療支援:3,000症例
・心臓血管外科弁膜症手術支援 :700症例
・ステントグラフト内挿術支援 :600症例

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