株式会社増富

高度管理医療機器等販売業 許可番号 第100327号

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虚血性心疾患

左室形成術(Dor手術)

心臓手術

左室形成術(Dor手術)の概要

左心室形成術、特にDor手術は、拡張型心筋症や心筋梗塞後に発生した左室の拡大および機能不全を治療するために考案された外科手術の一つです。この手術は、患部の心筋を再構成し、心室のサイズを減少させることで心臓のポンプ機能を改善します。以下その詳細について解説します。

左室形成術(Dor手術)の適応

左室形成術(Dor手術)は、特定の心臓疾患を有する患者に対して、心機能の改善や生存率の向上を目指して行われる重要な治療法です。この手術が適応となる患者の条件と、適応外とされる症例について具体的に説明します。

対象となる患者の条件

左室形成術(Dor手術)は、以下の条件を満たす患者に推奨されます。

  • 心筋梗塞後の左室拡大: 心筋梗塞後に左室が拡大し、重度の心機能不全を呈している場合。
  • 薬物治療に反応しない心不全: 従来の薬物治療による改善が見られない重度の心不全症状を有する患者。
  • 有意な左室形状の異常: 左室の非対称な拡大や球形化が認められ、心機能の低下に寄与していると考えられる場合。
  • 適切な冠動脈血流: Dor手術を行う前に、冠動脈の状態を評価し、必要に応じて冠動脈バイパス手術を同時に行うことができる患者。

適応外とされる症例

一方で、以下のような症例は左室形成術(Dor手術)の適応外となります。

  • 軽度の心機能障害: 軽度の心機能不全のみで、薬物治療による改善が期待できる患者。
  • 重篤な冠動脈疾患: 重篤な冠動脈疾患を有し、手術による改善が見込めない、または手術リスクが高過ぎる患者。
  • その他の重篤な健康問題: 重篤な肺疾患、肝疾患、腎疾患など、他の治療が優先されるべき健康問題を有する患者。
  • 高齢または強度の低下: 高齢や一般状態の著しい低下により、手術リスクが非常に高い患者。

左室形成術(Dor手術)の目的

左室形成術(Dor手術)は、特に心筋梗塞後の心室リモデリングによって影響を受けた患者に対して、心機能の改善、生活の質の向上、そして長期生存率への影響を目的として行われます。以下、これらの目的と効果について詳細に説明します。

心機能の改善

Dor手術は、左室の構造を正常に近づけることで心機能を改善させることを目指します。具体的には、以下のような改善が期待されます。

  • 左室容量の減少: 手術によって心室のサイズが小さくなり、心臓のポンプ機能が効率的になります。
  • 心機能指標の改善: 左室の射出率(LVEF)や心拍出量が改善されることが報告されています。
  • 心筋のストレス軽減: 左室の圧力が低下することで、心筋への負荷が減少し、心筋効率が向上します。

Dor手術の手技

Dor手術を成功させるためには、手術前の慎重な準備と評価が必須です。以下に、手術前の準備と評価における心機能の評価方法と画像診断による心室形状の評価について詳述します。

手術前の準備と評価

手術前の評価は、手術の適応を判断し、手術計画を立てる上で不可欠です。特に、心機能の評価と心室形状の評価は、Dor手術の成功に直結する重要な要素です。

心機能の評価方法

心機能の評価は、患者の心臓の健康状態を理解し、手術のリスクと利益を検討するために行われます。以下の方法が一般的に用いられます。

心エコー
  • 左室の機能、特に左室射出率(LVEF)の評価。
  • 心室の壁運動異常の有無を確認。
心臓カテーテル検査
  • 冠動脈の状態を評価し、血流再建が必要か判断。
  • 左室内圧を測定し、心機能の詳細を調べる。
心臓MRI
  • 心室の形状、大きさ、および瘢痕組織の範囲と位置を評価。
  • 心機能の詳細な分析に有用。

画像診断による心室形状の評価

心室形状の評価は、手術による改善可能性を判断するために重要です。以下の画像診断技術が利用されます。

心臓CT
  • 心室の大きさ、形状、および壁の厚さを3次元で評価。
  • 冠動脈の解剖学的な評価も可能。
心臓MRI
  • 心室の体積、機能、および瘢痕組織の詳細な評価。
  • 心筋の組織特性を非侵襲的に評価することができる。
心エコー
  • 心室の形状異常の定性的評価。
  • 実時間での心機能の評価が可能。

手術内容

  • 左室瘤切除:左室壁の一部を切除し、瘤状に膨らんだ部分を修復します。
  • 心室形成術:左室容積を減少させることで、心機能を改善します。具体的には、左室の一部を縫い縮めたり、人工パッチを使用して左室壁を補強したりします。

開胸手術の利点

Dor手術は、開胸手術の手法を用いて行われます。開胸手術は、胸骨を切開して心臓に直接アクセスする手術方法です

  • 直接的な視覚化:心臓への直接アクセスにより、手術部位を直接視認でき、より精密な手技が可能です。
  • 広範囲の操作:心臓の広範囲にわたる手術が可能で、特に複雑な手術や大規模な修復が必要な場合に適しています。

心停止と人工心肺装置の使用

心停止の必要性

  • 手術中の心臓の動きを止め、手術野を安定させる必要があります。これにより、手術中の精密な操作が可能となり、術中の合併症リスクを最小限に抑えます。

人工心肺装置の役割

  • 心停止中でも患者の体内で血液が循環し続けるように、人工心肺装置が使用されます。この機械は、手術中に心臓と肺の機能を代行し、体全体に酸素を供給し続ける血液を循環させます。
  • 人工心肺装置の使用により、心臓が停止している間でも、患者の生命を維持することができます。

手術後の管理

左室形成術(Dor手術)後の患者管理は、手術の成功と患者の回復にとって極めて重要です。この段階では、ICUでの厳格なモニタリングから始まり、早期および遅期の合併症への対応が含まれます。以下は、手術後の管理における重要な側面とその詳細です。

ICUにおける管理

手術直後の患者は、通常、集中治療室(ICU)に移送され、以下の点に重点を置いた管理が行われます。

  • 生命徴候のモニタリング: 心拍数、血圧、酸素飽和度などの生命徴候は連続的にモニタリングされます。
  • 呼吸管理: 多くの患者が人工呼吸器に接続された状態でICUに入室します。呼吸機能の安定を確認した後、適切なタイミングで人工呼吸器からの離脱が計画されます。
  • 疼痛管理: 手術後の疼痛は患者の快適性と回復に大きく影響します。適切な疼痛管理が行われ、患者の痛みを最小限に抑えます。
  • 血液循環管理: 必要に応じて、血液製剤の輸血や循環器サポート薬の使用が行われます。

早期・遅期合併症への対応

早期合併症

  • 不整脈: 手術後に不整脈が発生することがあり、適切な監視と治療が必要です。
  • 呼吸不全: 呼吸機能の回復を支援し、必要に応じて呼吸療法や酸素療法が行われます。
  • 感染症: 手術部位や呼吸器系の感染を予防するための措置が講じられます。

遅期合併症

  • 心不全の再発: 心機能のモニタリングが継続され、心不全治療の最適化が行われます。
  • 創傷治癒の問題: 手術創の適切なケアが重要であり、創傷治癒の遅延や感染の兆候に対する注意が払われます。
  • 心理社会的問題: 手術後の回復過程では、患者の心理的サポートも重要であり、必要に応じて心理的カウンセリングやリハビリテーションが提供されます。

Dor手術の臨床結果と評価

短期成績

術後の心機能改善

  • 心機能指標の改善: 多くの患者で左室射出率(LVEF)や心拍出量が術後に改善を見せます。
  • 左室サイズの減少: 術後、左室の拡張が減少し、心室の形状がより正常に近づきます。
  • 心不全症状の軽減: 呼吸困難や浮腫などの心不全に関連する症状が多くの患者で軽減します。
  • h4. 合併症の発生率
  • 早期合併症: 不整脈、創傷感染、出血などが報告されていますが、経験豊富な施設では低い発生率を維持しています。
  • 管理と予防: 早期合併症の管理には迅速な診断と適切な治療が必要であり、手術前後の適切なケアによって予防が可能です。

長期成績

生存率と再手術率

  • 生存率の向上: Dor手術を受けた患者は、術前に比べて長期生存率が改善されることが多くの研究で示されています。
  • 再手術の必要性: 一部の患者では、術後の再拡張や他の心臓疾患の進行により再手術が必要になる場合がありますが、これは比較的少数です。

生活の質と心機能の持続的改善

  • 生活の質の向上: 手術後、多くの患者が日常活動における制限の減少と生活の質の向上を報告しています。
  • 心機能の持続的改善: 術後の適切な医療管理と生活習慣の改善により、多くの患者で心機能の持続的な改善が見られます。

患者ケアと生活の質の向上

Dor手術後の患者ケアは、単に手術の成功を超え、患者の生活の質の向上と長期的な健康の維持に重点を置いています。特に術後リハビリテーションと生活習慣の改善は、このプロセスの不可欠な部分です。

術後リハビリテーションの重要性

術後リハビリテーションは、患者が手術前の生活に戻るための重要なステップです。心機能の改善と生活の質の向上を目指す体系的なアプローチが必要です。

心機能改善に向けた体系的なアプローチ

  • 個別化されたリハビリ計画: 患者の特定のニーズに応じてカスタマイズされたリハビリプログラムが開発されます。これには、身体活動の増加、呼吸療法、および必要に応じた心理的サポートが含まれます。
  • 段階的な運動プログラム: 患者は、運動の強度と頻度を徐々に増やしていくことで、心臓への負担を最小限に抑えつつ、心機能を徐々に改善させます。
  • モニタリングと評価: 定期的なモニタリングにより、リハビリプログラムの進捗を評価し、必要に応じて調整を行います。

生活習慣の改善と継続的な医療フォロー

  • 食生活の改善: 心臓に優しい食事への移行をサポートします。これには、塩分の制限、飽和脂肪酸の削減、野菜と全粒穀物の摂取量増加が含まれます。
  • 禁煙とアルコール制限: 禁煙とアルコールの摂取制限は、心臓病のリスクを減少させる上で重要です。
  • ストレス管理: ストレス管理の技術を学ぶことで、心臓への負担を減らし、全体的な幸福感を向上させます。
  • 定期的な医療フォロー: 定期的な医療チェックアップにより、心機能の変化をモニタリングし、必要に応じて治療計画を調整します。

入院~退院後の流れと、リハビリについて

心臓手術を受ける患者の入院から退院後に至るまでのプロセスと、心臓リハビリテーションについては以下のリンクをご参照ください。
入院中のケアから、退院後の生活への適応、そして心臓リハビリテーションを通じての健康回復と生活質の向上に至るまで、ご紹介しています。

よくある質問

こちらのコラムの内容の要点を「よくある質問」からまとめています。

左室形成術(Dor手術)とは何ですか?

Dor手術は、心筋梗塞後に発生した左室の拡大および機能不全を治療するために考案された外科手術の一つです。患部の心筋を再構成し、心室のサイズを減少させることで心臓のポンプ機能を改善します。

左室形成術(Dor手術)の適応条件は何ですか?

Dor手術は、心筋梗塞後の左室拡大、薬物治療に反応しない重度の心不全症状、有意な左室形状の異常、適切な冠動脈血流を持つ患者に推奨されます。

左室形成術(Dor手術)の目的は何ですか?

Dor手術は、心機能の改善、生活の質の向上、そして長期生存率への影響を目的として行われます。具体的には、左室容量の減少と心機能指標の改善を通じて、心筋のストレスを軽減し心機能を向上させます。

左室形成術(Dor手術)後の管理にはどのような点が含まれますか?

手術後の管理には、ICUでの厳格なモニタリングから始まり、早期および遅期の合併症への対応が含まれます。これには生命徴候のモニタリング、呼吸管理、疼痛管理、血液循環管理が含まれます。

左室形成術(Dor手術)の臨床結果とは何ですか?

Dor手術の臨床結果には、心機能指標の改善、左室サイズの減少、心不全症状の軽減が含まれます。また、手術は患者の長期生存率の向上にも寄与し、多くの患者が日常活動における制限の減少と生活の質の向上を報告しています。

関連コラム

【参考文献】

・特定非営利活動法人 日本冠疾患学会
左室形成術 – 虚血性心筋症の治療

http://www.npojca.jp/journal/image/200612070.pdf

・一般社団法人 日本循環器学会
急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2017/06/JCS2017_tsutsui_h.pdf

【株式会社増富の関連コラム】
心筋梗塞

心疾患情報執筆者

心疾患情報執筆者

竹口 昌志

看護師

プロフィール

看護師歴:11年
《主な業務歴》
・心臓血管センター業務
(循環器内科・心臓血管外科病棟)
・救命救急センター業務
(ER、血管造影室[心血管カテーテル、脳血管カテーテル]
内視鏡室、CT・MRI・TV室など)
・手術室業務
・新型コロナウイルス関連業務
(PCR検査センター、コロナ救急外来、HCU、コロナ病棟、
コロナ療養型ホテル、コールセンター)

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